100億円突破、不動産投資家・玉川陽介氏が「寝る時間を削って」行うことは?

都内を中心に資産100億円の不動産を持つ玉川陽介さん。購入する物件はどう選び、どのように管理しているのでしょうか。前回に引き続きお話をうかがいました。


「融資が出るかどうか」で決める

――玉川さんは、2020年に保有不動産の時価総額が100億円を超えました。どのような基準で物件を選んでいるのですか。

物件選びの条件は決まっていて、金融機関の融資が出る物件です。私の投資戦略は、純利回りとローン金利支払いのスプレッドを重視します。

つまり、スプレッドが取れれば収益が取れるという考え方ですので、物件を決めてから融資を受けるのではなく、まずは融資が出る物件に絞った上で、買うかどうか決めるという順番です。就活で例えるなら、「この会社にどうしても入りたい」と先に決めるのではなく、たくさん受けて受かった企業の中から一番いいところに行く、という考え方です。

――保有物件が池袋エリアに集中しているのも、融資が出る物件がこのエリアに多かったということですか。

はい。保有物件の7割が池袋周辺で、8割の物件が住居系の物件なのですが、最初から池袋の住居系を増やそうと考えていたわけではありません。最初に池袋周辺で物件を買い、その時に地域の金融機関とつながりができました。付き合いが続いていくと、信用ができていきます。地域のつながりの中で新たな地元金融機関を紹介してもらう機会もあります。その結果として池袋周辺の物件が増え、いまのポートフォリオになったのです。

――業界環境的に一棟ものは融資が出づらくなっています。その点で苦労はありますか。

あります。物件の条件としては、築浅でなるべく土地が広い物件は融資が出やすいといえますが、このような金融機関の仕組みを理解せずに購入者の好みで選んだ物件を金融機関に持ち込んでも、まず融資は出ないでしょう。金融機関ごとに融資が出やすい条件などがあるため、まずはそこを徹底的に研究します。ただ、融資が出やすい物件の条件が見えたとしても、その条件に見合う物件を探すのに苦労しますね。

IT、IoTを活用して管理を効率化

――物件が増えると管理の手間もかかります。どのように対応しているのですか。

基本的には細かいところまですべて自分で見ます。不動産に限らずですが、投資は人任せでうまくいくことはないと思っています。そのため、お金や物件管理は信頼できる人にある程度は任せるのですが、実務はディレクションします。例えば、物件を見に行って気になったことがあれば、レッドマインという進捗管理ソフトを使って管理会社にやってほしいことを指示します。工事の残置物があったので撤去してください、ここを修理しておいてくださいといった細かなリクエストを伝えるわけです。

物件数は大小あわせて約30件ありますので、1つ1つについて指示を出すのにはそれなりに手間と時間はかかります。ただ、ITを駆使して業務を効率化させることは、前職の情報処理の仕事ではまさに本業でしたのでその経験を活かして管理業務は効率化できています。

――具体的にはどんな業務が効率化できるのでしょうか。

物件の現場ではIoT機器を活用します。例えば、インターホン、防犯カメラ、オートロックがついていない場合は、自作して取り付けます。ネットワーク経由で遠隔管理できるようにするだけで手間は大幅に減らせます。社内の事務処理については、VPNを使ったリモートワークの導入が当たり前です。銀行とのやりとりでは、まだファックスを使うことが多いのですが、ファックスも電子化すればメールと同じように扱い効率化できます。賃料相場の分析などもITで行い、その結果は自社(コアプラス・アンド・アーキテクチャーズ)のウェブサイトで公開しています。

――会社のウェブサイトを見ると、大家業に役立ちそうな資料や収益計算のエクセルシートなども無料で公開していますね。

無料公開している理由は黎明期のIT文化で育ったからかもしれません。例えばLinuxや暗号化ソフトなどはすべてオープンソースといって無料で公開されています。そのような偉大なソフトウェアの多くが無償提供されていて、自分もその恩恵を受けて育ったことを考えると、自分が作ったデータやアプリの提供方法も無償という選択肢が思い浮かびました。

リノベの技術面やデザイン面にも関わって最適化する

――リノベーションや改修工事の内容などにも関わるのですか?

はい。内装はもちろん、必要に応じて給排水管の敷設設計も自分でやります。このような多くの人が専門業者に任せきりとなる技術的な要素についても、教えてもらいながらでも積極的に関わった方が良いと思います。きちんと内容を理解して的確な指示を出した方が施工を最適化できるからです。専門業者といえども任せきりでは最適な提案をしてもらえるとは限らないともいえます。

――どんな部分に関わるのでしょうか。

廊下の床の色の候補が10種類くらいあれば、色見本帳だけで判断するのではなく、実際に試し塗りをして判断します。インテリアは、海外の通販サイトから使えそうなものを取り寄せて選んでいます。照明を選ぶとしたら、使えそうなものをたとえば10個くらい全部買い、1つ1つ取り付けてみて、その中から最も良いものを使うわけです。

私はデザインの専門家ではありませんので、Pinterestというデザインアイデアのサイトを一日中見て、自分の物件に当てはめられそうなデザインを探し、PhotoShopで物件に合成してお手本を作ります。「このデザインで、ここの色を青から黄色に変えよう」とか、そんな風に画面を見ながらイメージを作り、内装業者に指示を出しています。

デザインのプロなどに頼む方が良いという人もいますが、プロが必ずしも100%の能力を発揮してくれるとは限りません。仮に100のデザイン力を持つ人が20%の力でやるなら、20の力の人が120%でやった方が良い場合がありますよね。リノベーションするのは自分の物件ですから、当然、外部の協力者よりも私の方が一生懸命に取り組みます。

私の場合、もの作りや最適化は好きな仕事なので、寝る時間を削ってでも向かい合えます。好きこそものの上手なれで相応の結果は出せていると思います。

© 株式会社マネーフォワード