【レースフォーカス】中上、“ちょっとがっかり”な自己ベストタイの4位。表彰台に返り咲いたMoto3小椋/MotoGP第13戦

 MotoGP第13戦ヨーロッパGPの決勝レースでは、ふたりの日本人ライダーが“カムバック”した。ひとりはMotoGPクラスの中上貴晶(LCRホンダ・イデミツ)。もうひとりはMoto3クラスの小椋藍(Honda Team Asia)だ。

■中上、自己ベストリザルトタイの4位フィニッシュも……

 中上について“カムバック”と表現するのは、あるいは正しくないかもしれない。2020年シーズン、特に後半戦は安定して7位から5位付近の結果を残してきたのだ。それでも“カムバック”としたのは、前戦テルエルGPでの痛恨の結果を、ヨーロッパGPの力強いレースで見事に払しょくしてみせたからだ。

 予選ではQ2から臨み、一時はトップタイムをマークした。中上自身も残り時間が5分の時点で、自分がトップであるとわかっていた。しかしその3分後、最終コーナーで転倒。「『ゲームオーバーだ』と思った」という。それでも3番グリッドを獲得。「フロントロウは予想外でした」と言うが、2戦連続のフロントロウに並んだ。

「2020年の新しいリヤタイヤでライディングスタイルを変えようと取り組んでいます。このタイヤはグリップは高いんですが、どこでもというわけではなくて、ブレーキの安定性で少し苦戦しているんです。でも、HRCとチームからのサポートがあります。それに、どんなコンディションでも、今週のように適応できているんです」

「どんなコンディションでもバイクからいいフィードバックが返ってきます。テルエルGPでもそうでした。フィーリングはいつも、高いモチベーションになるんです」

 中上は予選後にそう語り、「今はプレッシャーはないですよ(笑)」とも笑った。「ポールポジションじゃないですからね。レースを楽しめると思います」

 バレンシアのリカルド・トルモ・サーキットで行われたヨーロッパGPは土曜日まで、ほぼウエットコンディションでの走行。決勝日のウオームアップセッションだけがレース前にドライコンディションで走行できた唯一のセッションだった。2018年シーズンはウエットコンディション、2019年シーズンは右肩を手術し、その療養のためにバレンシアGPを欠場した中上にとって、自身のドライコンディションでのデータがほとんどない状況。ともすれば難しい状況だが、セッションではおおむね安定して上位につけた。自身が語るところの「バイクからのいいフィードバック」が走りに自信を生んだ、ということなのだろう。

 迎えた決勝レースでは序盤に5番手にポジションを落とすが、4番手を走るミゲール・オリベイラ(レッドブルKTMテック3)との差をキープ。5周目にオリベイラを交わして再び4番手に浮上すると、レース終盤にもかかわらず、一時は2秒以上あったポル・エスパルガロ(レッドブル・KTM・ファクトリーレーシング)との差を詰めていった。残り2周ではP.エスパルガロとの差は0.6秒ほどになる。しかし、オーバーテイクを仕掛けるには厳しい差だった。

 レース後、中上は「複雑な気持ちです」と振り返った。

「4位は悪くありませんが、ちょっとがっかりしています。でも一方で、残り7、6周あたりでは、常に限界近くまで攻めていました。自分の持てるベストパフォーマンスをしたと思います。バイクにはすばらしいフィーリングがありました。でも、序盤の10周は、少しタイヤをセーブしてしまいました。それについては満足していません。タイヤをセーブすることはいつも考えているんですが、ちょっと気にしすぎましたね。ポルをオーバーテイクできませんでした」

「レース終盤、僕はすごく速かったと思います。(残り2周の)26周目で自己ベストを出したんです。これはすごくいいことなんですけど、レース序盤や中盤にどうしてこのタイムを出せなかったのか……自分にちょっと、がっかりしているんです。終盤のパフォーマンスをレース序盤、中盤と入れ替える必要がありますね。追い上げるのが遅かったと思います」

 中上は4位という結果が「タイヤでもバイクでもない、僕自身の問題です」と認めた。それでもじりじりとP.エスパルガロとの差を削っていく力強いレース終盤の追い上げは、本当にすばらしいものだった。

 ヨーロッパGPでは4位、インディペンデントチームのライダーとしてトップでレースを終えたが、この4位という結果は第3戦アンダルシアGP以来である。このときのコメントを振り返ってみると、中上はレース後に「表彰台に向けて争ったことは自身の糧になりました」と言っていた。そして今回は「終盤のパフォーマンスを序盤から中盤に持ってこられれば、優勝や表彰台という、もっといい結果を出すのが楽になると思います」とコメントしている。今や、彼のなかで表彰台を目指すのが自然なことになっているように思える。

 そして、もうひとつ。「今回は外部からのプレッシャーをうまくマネジメントできたと思います。ナーバスにもならなかった」と、テルエルGPで払った勉強料を高すぎるものにしなかったことをうかがわせた。今季は残り2戦、中上が最高峰クラスの表彰台に立つ姿を見る日は近いはずだ。

■Moto3クラスの小椋藍、表彰台に返り咲き

 Moto3クラスでは、まさしく小椋が表彰台に戻ってきた。2020年シーズンの開幕戦カタールGPで3位表彰台を獲得したのを皮切りに、表彰台獲得回数を積み上げてきた小椋。表彰台争いの常連となり、あとは初優勝を待つばかり、のはずだったのだが。

 風向きががらりと変わったのは第9戦カタルーニャGPからだ。表彰台争いどころか、トップ集団にも加わることができないレースが続いた。小椋は特にレース終盤に強く、最終ラップまでにするするとトップ3あたりに浮上して、最終ラップの混戦を巧みに制し、表彰台を手にすることが多かった。しかし、第9戦カタルーニャGPから第12戦テルエルGPまでは、いかに終盤に強いといっても、表彰台争いに加わることが難しいポジションを走っていた。

 結果を見てみると、第9戦が11位、第10戦が9位、第11戦が14位、第12戦が9位。シーズン前半の小椋の強さを考えれば、首をひねりたくなる結果だ。チャンピオンシップではランキング2番手を維持していたが、第12戦を終えてランキングトップのアルベルト・アレナス(Valresa Aspar Team Moto3)との差は19ポイントに広がっていた。

 苦しいレースが続いていた小椋。しかし第13戦ヨーロッパGPでは、強い小椋が戻ってきた。予選で8番グリッドを獲得すると、1周目には6番手付近に浮上する。Moto3クラスはオープニングラップから終盤まで、ライダーたちがほとんど連なってあちこちでオーバーテイクが繰り返される混戦となるので、6番手といってもトップ集団に入る位置である。

 しかし2周目にアクシデントが発生。小椋の前を走っていたセレスティーノ・ビエッティ(SKY Racing Team VR46)と、アロンソ・ロペス(Sterilgarda Max Racing Team)が転倒。このとき、4番手を走っていたアレナスのマシン後部にロペスのマシンが接触し、アレナスのマシンの一部が破損してしまった。

 レース後、motogp.comでアレナスがコメントしていたところによれば、右側のフットペダルが壊れてしまったのだという。アレナスはピットインを余儀なくされた。その後、ペダルを修復して再びレースに加わったが、周回遅れにもかかわらず上位陣のポジション争いに加わったためブラックフラッグが提示され、失格となった。

 小椋はこのあともトップ集団でレースを続け、最終ラップにはトニー・アルボリーノ(Rivacold Snipers Team)を交わして3番手につけると、そのポジションを守り切ってフィニッシュ。面目躍如の走りで5戦ぶりの表彰台を獲得した。

 レース後の会見のなかで、小椋は「ここ数戦は後方でのフィニッシュで厳しいレースだったので、とてもうれしいです」とコメントしていた。会見ではいつものように落ち着いた表情ではあったが、その口ぶりにはどこかほっとしたものが混ざっていたように思う。

 また、ここ数戦、精神的にいつもとは違っていたと語った小椋に、今回の結果をもたらしたポイントは何だったのかと尋ねた。

「ひとつの問題としては、バルセロナ(カタルーニャGP)から気温が低かったということなんです。それに適応できませんでした。速く走れないと精神的にほんの少し沈んでしまって、それでさらに遅くなってしまいました。でも、今週はウエットコンディション、ミックスコンディションが僕の助けになりました。アクシデントもあって、表彰台を獲得できましたが、まだ完ぺきなパフォーマンスではないので、継続していきます」

 アレナスが失格、0ポイントになったことで、アレナスと小椋との差は3ポイントにまで縮まった。この3位表彰台は、小椋にとって残り2戦に向け、そしてタイトル争いに向けても好材料になるかもしれない。

2020年MotoGP第13戦ヨーロッパGP Moto3クラス:優勝はラウル・フェルナンデス、2位:セルジオ・ガルシア、3位:小椋藍

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