『滑走路』コロナ禍で未来が見えなくなってしまった人たちへ

(C)2020「滑走路」製作委員会

 32歳で自ら死を選んだ歌人・萩原慎一郎のデビュー作であり、遺作ともなってしまった同名歌集をベースに、『シン・ゴジラ』の助監督や『マチネの終わりに』で監督助手として関わった大庭功睦監督が新たに作り上げたオリジナルの群像劇です。

 メインとなる登場人物たちは3人。激務に追われながら、自分自身を失いそうになっている中、非正規雇用が原因で自死した人のリストから、自分と同い年の青年に興味を抱いて調べ始める厚生労働省の若手官僚・鷹野。幼馴染をいじめから救ってしまったことが原因で、いじめの標的になりながらもシングルマザーの母親に事実を告げられない学級委員長。赤ちゃんが欲しいと考えながらも心に闇を抱えた夫との関係に疑問を持ちながら生活している切り絵画家の翠。鷹野役の浅香航大、翠役の水川あさみ、と大人キャストはもちろんですが、中学生の2人も素晴らしいお芝居を見せています。点と点のように見える3人の物語がある瞬間に繋がって感情的に走り出していく後半はサスペンス感も増して一気に面白くなっていきます。

 本作を作っている頃はきっと誰も想像していなかったと思いますが、今、コロナ禍で仕事がうまくいかず将来に不安を抱いている人、フッと楽になりたくて死を考えてしまう人がいるかもしれません。私自身この不安定な経済状況で「どうしてこうなってしまったんだろう」なんてことを考えることがあります。そんな人にこの映画を観てもらいたいです。映画を観たら、未来に向けて飛び出すための滑走路が見えてくるかもしれません。★★★★☆(森田真帆)

11月20日から全国公開

監督:大庭功睦

出演:浅香航大、水川あさみ、寄川歌太

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