【ルポ】「絶景福江島マラニック大会」に参加 島の自然を再確認

ススキの穂が朝日に照らされる鬼岳山頂付近。スタートから高低差120メートル以上の坂道を登った後は、長い下り坂。赤島や黄島を望みながら、選手たちが一気に駆け降りていった=五島市上崎山町

 五島市で初めて開催された「絶景福江島マラニック大会」。同大会に記者も出場し、島の自然を体験した。
 日々の取材は車移動。運動不足どころか、10年前に高校の陸上部(短距離)を引退後は、全く運動をしていない。それでも記念的な「第1回大会」に魅力を感じ、福江島マラニックに出場した。歩くからこそ見えた風景があった。
 日の出の1時間前、午前6時に出発。白み始めた空に浮かぶ鬼岳のシルエットを目指し、坂を上った。時速6キロで進めば時間内にゴールできる計算。平地や下り坂は走り、想定より10分ほど早く鬼岳に到着した。
 既に息は上がったが、普段は車で通り過ぎる自然や人々の営みにはっとした。牛と目が合えば「モー」と鳴かれ、川底まで澄んだ小川には小魚が泳いでいる。ヒノキや牛舎、土などさまざまな匂いも感じた。
 大浜や田尾の海岸沿いを抜け、20キロを過ぎた頃には周囲の自然を楽しむ余裕もなくなる。重い一眼レフ代わりのスマホで写真を撮る回数も激減した。
 富江町山手から玉之浦町上の平へ抜ける山道。「ここからきつかぞー。車に乗せてやろうか」。草刈り中のおじさんの冗談が笑えない。太ももや膝が悲鳴を上げ、終わりの見えない曲がりくねった坂道が精神的にもこたえた。マラソンとピクニックを組み合わせてマラニックだそうだが、もはやピクニック感はない。
 上の平にたどり着き、ジビエのつみれ汁を味わう。肉のうま味と塩味が身に染み、おかわりをもらう。まだ上半身は元気そうだ。
 山道は続く。数十メートルおきに屈伸を繰り返して前に進む。脱落者を乗せる回収車からの視線が痛い。ガードレールで体を支えていると、道沿いの林に捨てられた大量のごみが目につく。缶やペットボトルに加え、洗濯機などの家電も。五島では海外から漂着する海ごみも多いが、これらは言い訳できない地元の問題だ。
 午後1時10分ごろ、40.6キロ地点の荒川に着いた。前半の“貯金”もあり、まだ何とか次の関門を目指せる時間だ。五島うどんを食べて再び歩き始めたが、足が震えて動かない。受付でリタイアを申し出ると、残念そうに言われた。「あら、ラストランナー(最後尾)だったのに」

 翌朝は車で取材先へ。車のありがたさと味気なさを感じた。「今度はマイペースで歩くか」。そう考えながら、アクセルを軽く踏み込んだ。

 


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