63歳資産4000万「65歳で完全リタイアして子ども2人に1000万円ずつ残せる?」

読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。
今回の相談者は、63歳、公務員の男性。あと2年で完全にリタイアしたうえで、子どもそれぞれに1,000万ずつ遺産を残したいという相談者。現状で可能でしょうか? 注意すべき老後の出費とは? FPの高山一惠氏がお答えします。

子ども2人にそれぞれ1,000万を残したい。仕事は65歳で完全リタイヤしたいが、非常勤で手取り10〜15万くらいの仕事を探さなくてはならないか?

【相談者プロフィール】

・男性、63歳、公務員

・未婚・既婚:その他

・子どもの人数:2人(36歳、31歳)

・同居家族について:なし

・住居の形態:賃貸

・毎月の世帯の手取り金額:24万円

・年間の世帯の手取りボーナス額:50万円

・毎月の世帯の支出の目安:18万円

【毎月の支出の内訳】

・住居費:3万円

・食費:3万5,000円

・水道光熱費:1万円

・教育費:1万円

・保険料:3万4,000円

・通信費:9,000円

・車両費:6,000円

・お小遣い:3万円

・その他:1万6,000円

【資産状況】

・毎月の貯蓄額:2万円

・現在の貯蓄総額:3,000万円

・現在の投資総額:1,000万円

・現在の負債総額:0円

・ボーナスからの年間貯蓄額:20万円

・年金額不明


高山:ご相談ありがとうございます。65歳で完全リタイアをご希望とのこと。その上で2人のお子さんそれぞれに1,000万円を残せるかどうかのご相談ですね。65歳以降の収支を中心に試算してみましょう。

65歳以降の生活費を「見える化」する

現在のご相談者さんの家計の状況を拝見すると、特に無駄遣いしていることもなく、毎月収支はプラスになっており、貯蓄もできているご様子。ですから、65歳までは、何もなければ特に問題なく暮らせるでしょう。65歳から完全にリタイアをしたいとのご希望ですから、リタイア後にかかる生活費を確認しましょう。

今後何歳まで生きるかは、誰にもわかりませんが、厚生労働省によると2019年の日本人男性の平均寿命は81.41歳とのこと。少し余裕を見て85歳まで生きると仮定して計算してみます。

65歳からの公的年金の確認を

ご相談者さんの公的年金の金額が把握できていませんので、ここでは一般的なデータを使います。仮に現役時代の平均報酬月額が50万円で40年間厚生年金に加入した場合、厚生年金は年額138万5,000円程度もらえます。この金額に国民年金の分が上乗せになります。国民年金が満額支給されるとすると、約74万円(2020年価格)が上乗せになります。ざっくりとですが、月額17万7,000円程度の年金が支給されます。

65歳からの生活費を試算する

65歳からの生活費ですが、現在と変わらない生活を送るとすると約18万円程度となり、ちょうど年金収入で賄える金額です。保険の契約詳細がわからないので、想像上の話になりますが、保険料からみると貯蓄型の保険に加入している可能性が高く、一般的には、65歳で保険料の支払いが終了するケースも多いので、そうすると、保険料の分も家計に余裕がでることになります。ただし、気になるのが住居費用です。現在は賃貸暮らしで家賃が3万円とありますが、今後、病気になったり、介護が必要になったりして施設で暮らすとなった場合には、一気に住居費用が上がります。

将来のことはわかりませんが、仮の数字上は、毎月18万円程度の生活を65歳以降も維持することができれば、預貯金を取り崩すことなく生活することができそうです。

医療費はいくらみておくべき?

ただし、高齢になると、病気になったり、介護になったりするリスクが高まります。厚生労働省が公表している「生涯医療費」のデータを見てみると、1人の人が一生に使う生涯医療費は2,700万円とのことですが、生涯医療費の約半分は、70歳以降にかかる傾向にあります。そうすると、70歳以降の医療費は、1,300万円程度になります。とはいえ、これは医療費の総額ですから、自己負担は年齢や所得によっても違いますが、1〜3割です。今後は、高齢化が進み医療費の自己負担が増えることが予想されるので、老後の医療費として500万円程度はみておきたいところです。

心配な介護費は?

加えて、介護にかかるお金ですが、公益財団法人生命保険文化センターの資料によると、介護になった時に一時的な費用の平均は69万円、毎月の介護費用の平均は在宅介護の場合で月額平均4万6,000円、施設に入居する場合には、月額平均11万8,000円となっています。ご相談者さんの場合は、1人暮らしですから、施設に入居する可能性が高いかもしれません。介護期間の平均が4年7か月とのことなので、施設に入居した場合には、介護費用の平均として約700万円かかります。

ですから、老後の医療費と介護費用合わせて1,200万円見ておくと安心です。現在、貯蓄が3,000万円ありますので、仮に65歳以降に貯蓄ができなかったとしても現在の貯蓄から捻出することができそうです。

家計のブラックホール「特別支出」も把握しておく

これまでお話してきた通りの試算であれば、現時点での投資資産も1,000万円ありますので、預貯金の残額と合わせて考えると、お子様それぞれに1,000万円ずつ残すことはできそうです。

ただし、老後のお金を試算する際に、日常の生活費以外に忘れてはならないのが「特別支出」です。特別支出とは、臨時で必要となる急な出費のことです。例えば、家具、家電の買い替え費用や冠婚葬祭費、家の修繕費用など、リタイア後も何かと特別支出が発生します。

特別支出の金額は各家庭により異なりますが、例えば、家具・家電の買い替えなどでは50万円から100万円程度、家の修繕費は200万円程度、子どもへの結婚資金への援助は子ども1人につき100万円、孫への資金援助は、孫1人につき50万円程度です。いずれは、「車を買い替えたい」となった場合には、1回100万円〜150万円程度かかるケースが多いようです。

特別支出は赤字転落の大きな要因

実は、特別支出は、定年後の家計が赤字に転落する大きな要因になります。特別支出はいつ支払いが発生するかわかりにくいお金なので、家計を考える上では見過ごしがちですが、ざっくりとでも良いので、「いつ頃」「いくらくらいかかるか」を把握しておきましょう。

今回は公的年金の収入など、あくまでも一般的なデータを活用しての試算です。今回のアドバイスを参考にしていただき、ご相談者さんの実情に合わせて、年金の収入や病気、介護が必要になった場合どうするか、どのような特別支出が発生しそうかを考えてみてください。その上で再度、試算してみていただけるとよりリアルな数字が見えてくるかと思います。

また、今回は現在の投資資産の運用については考慮していないので、これらも考慮すれば、さらに資産は増える可能性もあります。ぜひ、お時間のある時に試算してみてくださいね。

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