王位継承権より大事なもの、それが「愛」

オランダ王室の恋愛・結婚事情【世界から】

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「饗宴の儀」の参列を終え、皇居・宮殿を出るオランダのウィレム・アレクサンダー国王夫妻=2019年10月22日夜午後

 民主主義が生まれたとされる欧州だが、意外にも国王がいる国が多い。英国は有名だが、スペインやデンマーク、ベルギー、スウェーデン、ノルウェーなどにも国王がいる。筆者が暮らすオランダにも同じく王室がある 。

 オランダ王室と日本の皇室との関係は深く、天皇、皇后両陛下とウィレム・アレクサンダー国王夫妻も親しい間柄だ。そんなオランダ王室の恋愛、そして結婚事情とはどんなものなのだろう。(オランダ在住ジャーナリスト、共同通信特約=稲葉かおる)

 ▽最大の関心は恋人の有無?

 アレクサンダー国王を始めとする王室の人々は気さくなだけでなく、とても庶民的なことで知られる。イベントなどで沿道に出れば誰にでも笑顔で話しかけ、リムジンではなく自転車に乗り国民と一緒に街を回り、慈善事業の資金集めとなればアムステルダムの運河に飛び込んで泳いでみせる…。王様や女王様がそこまでやるか!と誰もが感服してしまうほどだ。当然、国民からは絶大な人気を誇る。

 現国王の第1子で長女であるアマリア王女は現在17歳の高校生。大学進学コースで学んでいる。「絶対長子相続」で王位継承が行われるオランダでは、彼女がいずれ女王になる。国民は彼女のファッシ学校の成績やファッション成績ではなく、ボーイフレンドがいるのかどうかに興味津々である。

 あくまでも冗談だが、「アマリア王女が将来、異性ではなく同性と結婚すると言い出したら、一体王家はどうなるのか?」というような、たわいもない話題で国民はあれこれと話し合うのが大好きだ。

 ちなみに、同性同士の婚姻はオランダで合法化されている。アマリア王女が「花嫁」を迎え入れることは可能である。「それでは王室の血統が途絶えるのでは?」と心配する声が上がりそうだが、心配はない。他の王家から養子を迎えるなどすればいいだけだ。アマリア王女は女王になった暁には、パートナーは王女という肩書を授与される結果に落ち着くだろう。

オランダ王室の3姉妹。中央が将来の女王となるアマリア王女

 ▽男性版シンデレラ

 ここで、他国の王室に婿入りしたオランダ人男性のエピソードを紹介しよう。マレーシアの王女と結婚した、デニス・フェルバース氏だ。デニスは、プロのサッカー選手を夢見たこともあるごく普通の若者だった。残念ながらプロにはなれなかったが、サッカーとの関わりは捨てきれず、マレーシアのサッカーチームのマネジメントを引き受けることになる。

 縁とは不思議なものだ。デニスはマレーシアのカフェでアミナ王女と出会うのだから。スポーツ好きの王女とデニスは意気投合し恋に落ち、めでたく結婚したのである。王女もデニスもお互いの家族を非常に大切にしており、プライベートについて話すことを避けるよう心掛けている。

 そのため、「現代のおとぎ話」風な情報は少ない。①デニスの父親はチューリップなどの生花や球根を扱う業者で勤勉であること②母親は洋服店に勤務していること③王女の父親はオートバイが趣味であり、デニスと一緒にツーリングを行っているらしい―といった断片的な情報のみが伝えられているのみだ。

 ▽王位を掛けた恋

 一般女性への愛を貫き結婚し、王子のタイトルを放棄した人物もいる。アレクサンダー国王の弟、ヨハン・フリーゾ王子である。彼がオランダの一般女性、メイベル・ウィサスミットさんとの婚約を発表したとき、多くの国民が驚くとともに、落胆の声も上がった。

 オランダを代表するアムステルダム大を卒業後、シェル石油など世界的大企業で勤務したというメイベルさんの経歴は申し分ない。だが、交友関係に不審な点があったのだ。過去に彼女が交際した男性のうち1人は、オランダの元麻薬王で殺人容疑がかけられていた人物である。もう1人は公金横領で逮捕されたボスニア・ヘルツェゴヴィナの元国連大使で、メイベルさんと交際していたときには妻帯者だった。つまり、メイベルさんには不倫疑惑もあったのである。

 フリーゾ王子のように王位継承権を持つ人物は、政府と議会の双方から承認を得なくては結婚することはできない。ところが、メイベルさんの怪しげな過去は、未来の王女にふさわしくないとみなされ、政府による身辺調査が数回にわたり行われた。

結婚式でオランダ国民に向かって手を振るメイベルさん(左)とフリーゾ王子

 ここで、フリーゾ王子は驚くべき行動に出る。議会の承認を得る前に、メイベルさんとの結婚を決めたのだ。まさに、王位継承権を捨て、恋を実らせたのである。夫妻は2004年に結婚した後、英国のロンドンに居を移した。

 2人の子供にも恵まれ、家族ともども幸せな日々を送っていた12年2月、フリーゾ王子は余暇で訪れたオーストリアでスキー事故に遭ってしまった。数カ月間意識不明状態に陥り、その後意識を取り戻すことなく亡くなった。まさに「王位をかけた恋」に生きたといえるだろう。

 ▽王室メンバーとしての自覚

 王室のメンバーが婚約したり、結婚したりするとなれば国民の間に賛否両論が巻き起こり、ああでもないこうでもないとマスコミもはやし立てる。これはどこの国でも同様だろう。しかし、オランダ王室のこれまでの例でいけば、国民から文句が出そうにもない「誰からも好かれそうなタイプ」の相手を実にうまく選んでパートナーに迎えているようだ。

 もし、不幸にして議会や国民からの合意を素直に得られそうにない相手を選んだ場合は潔く王室を去る。これも、国民に支えられ、国の象徴として存在する王室メンバーとしての自覚があるがゆえの選択だろう。

 さて、次期の女王となるアマリア王女は、はたしてどんな人物と恋に落ちるのだろうか?