長崎県知事 年末あいさつで言及 船集団感染、一番緊張した

クルーズ船コスタ・アトランチカ(イタリア船籍・8万6千トン)

 中村法道知事は25日の職員を対象にした年末あいさつで、今春、長崎港に停泊中のクルーズ船コスタ・アトランチカで乗組員149人が新型コロナウイルスに集団感染した際、最も緊張が走った場面について言及した。あいさつ28分のうち4分の1の7分を費やし、定例会見でも今年最も印象に残った出来事に挙げた。あいさつの要旨は以下の通り。
 アトランチカは1月29日に長崎に入港。三菱重工業長崎造船所の岸壁に停泊した。国際社会で感染が拡大し、次の寄港先が確保できず修繕後もアトランチカを含め3隻のクルーズ船が停泊を続けた。(4月に)アトランチカで感染が確認され、乗組員が船を越えて懇談の機会を設けたという情報もあった。船内事情が分からず別の2隻にも感染が拡大すると大変な事態になると思った。一刻も早く2隻には出港するよう要請を重ねたが、次の寄港地が確保できずなかなか応じてもらえなかった。
 さらに別のクルーズ船1隻が五島沖を航海中に燃料が底を突き、補給のため入港したいと要請があった。ひょっとしたらクラスター(感染者集団)が起きているのではと思ったが、人道上受け入れないという選択肢は難しく、乗下船はしないという条件で入港を許可した。しかし、長崎港に近づく途中で実は妊婦2人を下船させてほしいと言われ、燃料補給を上回る人道上の観点からやむを得ず受け入れた。イタリア船籍の船だったので、イタリア大使館から随行員を派遣してもらい、1人の接触者もないよう国外まで案内するよう条件を付けた。
 この船は補給を終えたが、事前に指定した時間になっても出港しない。ひょっとしたら居座るつもりなのかと懸念した。船内でクラスターが発生した可能性があるのではないか、何か支援を求めるため出港しないのではないかと恐れ、移動命令を出した。その2時間後にようやく、外務省や関係機関の力添えをいただいて出港したが、一番緊張した事例だった。

 


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