「仮想通貨2000万円、売却のタイミングは?」早期リタイア目指す30歳、野望への順路は?

読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。
今回の相談者は、30歳、会社員の男性。早期リタイアして、支出を極力減らし、投資の利益のみで暮らしたいという相談者。そのために、仮想通貨の売却と、リタイアのタイミングについて迷っているそうですが……。FPの秋山芳生氏がお答えします。

「早期リタイアして、支出を極力抑えながら株式配当などのインカムゲインで生計を立てること」を目指しています。結婚の予定はありません。出費は年金を含めて年間90万円ほどかかる見込みのため税引き後年利3%の金融資産を3,000万円分保有することを目標にしています。

仕事をリタイアできるタイミングと、仮想通貨の扱いについて迷っております。目標を達成するためにネックとなっているのが資産の約50%を占める仮想通貨です。運よく早期に取得できたため、含み益が大きい状態です。インカムゲインを生む株式や債券へ徐々にシフトすることを考えているのですが売却するタイミングで大きく税金がかかってしまうため、二の足を踏んでいます。

仕事を早々にリタイアしてしまえば、仕事の収入がゼロになるため売却益による税金を抑えられますが、働き続けた場合と比べて将来の資産がどの程度違ってくるのかも知りたく、お力添えいただけますと幸いです。

【相談者プロフィール】

・男性、30歳、会社員、独身

・住居の形態:持ち家(マンション・集合住宅)

・毎月の世帯の手取り金額:20万円

・年間の世帯の手取りボーナス額:80万円

・毎月の世帯の支出の目安:5万6,000円

・住居費:1万5,000円

・食費:2万円

・水道光熱費:1万1,000円

・通信費:4,000円

・その他:1万円

【資産状況】

・毎月の貯蓄額:14万円

・現在の貯蓄総額:2,200円(うち、仮想通貨2,000万円)

・現在の投資総額:2,000万円

・現在の負債総額:0円


秋山: ご相談いただきありがとうございます。ファイナンシャルプランナー 兼 FP YouTuberの秋山芳生です。早期リタイアを目指していて、仮想通貨を持っているが売却時の税金が高いので工夫したいということですね。

早期から仮想通貨を買っており、資産4,200万円のうち、2,000万円が仮想通貨とのこと。現金が200万円でその他は投資に回っているので、かなりリスク(価格の増減の可能性)が高い状態といえますね。売る場合も雑所得として総合課税(給与所得と合算して計算する)になるので、税率も高くなってしまいます。節税対策なども含め一緒に考えていきたいと思います。

貯蓄のために無理をしていませんか?

まず、支出の内容をみていきますが、非常に少ないですね。月に5万6,000円の支出というのは驚異的です。一人暮らしで2万円の食費は、自炊も含めて工夫をされていると思います。また住居費が1万5,000円と少ない状態ですが、永続的に可能な状態でしょうか? 特殊な条件下であったり、無理をしていない状態であれば良いと思いますが、貯蓄のために無理をしすぎて「今」という時間の充足が犠牲になっていなければ良いなと思います。

仮想通貨がハイリスクと言われる理由

投資についてですが、2,000万円が仮想通貨というのは値動きの幅が大きく、リスクが高い状態です。2017年のビットコインバブルの際は、1ビットコインが200万円を超えた後、急激に下がり、40万円を切るところまで下落。その後回復と下落を繰り返しながら2020年12月現在では、250万円にまで達しています(2020年12月26日現在)。これは、コロナ禍における財政出動が全世界的に行われており、大量の紙幣が供給されることで通貨安がいたるところで起こっているからです。紙の紙幣の価値が下落し続けると予想した人が、流通量に制限のある仮想通貨を評価して投資をしているのです。

仮想通貨には国際間の送金がほぼ遅延なく、手数料も少ないものがあったり、新規発行数に制限がかかっているので、湯水のように発行されてインフレするということもありません。「それなら、ジャブジャブと各国が発行している紙のお金より価値が安定するのではないか?」と考える流れがあるかなと思います。この発想自体は間違いではないですが、仮想通貨は、ビットコインの後に登場した「アルトコイン」と言われるものも含めて、1000以上存在しており、技術的にすぐれたものにいつか収束していく可能性があります。現在投資している先が、リップルなのかビットコインなのかはわかりませんが、機能やセキュリティに強い仮想通貨が出てきたら一気に売られて他のものに流れてしまうことがあり得るのです。この記事を書いている今から、この記事が掲載されるまでに無価値になってしまう可能性すらあると思います。

資産として持ち続けるには不向き

仮想通貨の可能性を全否定するつもりもありませんし、今後も上がり続ける可能性もあります。一方、全くの無価値になってしまう可能性もあり不確定要素が大きいため、将来の人生を左右する資産として持ち続けることはお勧め出来ません。

今後も仮想通貨の価値が上がる可能性にかけて投機的に持っていたいのなら別ですが、将来安定したインカムゲイン(配当収益)が得られる資産に切り替えて行きたいと考えるのならば売却を急いだほうが良いでしょう。もしくは、一部を残し、一部を現金化させて避難させていくと良いと思います。

先述のとおり仮想通貨で得た利益は雑所得となります。雑所得は総合課税になり、給料と合算して税率が決まるので所得税が高くなりがちです。相談者様もそのことがお分かりですから、「退職して無収入になってから仮想通貨を売れば税金が安くなる」と考えているのだと思います。

まず、リタイアが「3,000万円から資産を4%の配当を得て、税引き後で3%前後の年間90万円を得ていく状態」とすると、仮想通貨を売却してしまえばすぐに達成できます。目標が達成出来る状態であれば先々までずっと待っているのはリスキーだと思いますので、売却を前提に考えて良いと思います。

仮想通貨を現金化させる時に注意すること

総合課税は、1年間の所得の合計になりますので、給与収入と合わせて考えてみます。相談者様は毎月20万円の手取りと年間80万円のボーナスがあるので320万円ですね。ざっくりですが400万円の額面としましょう。仮に課税所得が177万とすると、これに売却益がどのように乗るかによります。

ここでは、2,000万円の仮想通貨は、初期に買ったものと積み立てたものがあり、平均は元本の5倍になったと仮定し、400万円積み立て額に対し、1,600万円の運用益が出たものとします。

1,600万円の運用益だと、税率は900〜1,800万円の33%の税率のテーブルになってしまうので、かなり高いですね(表参照)。総合課税は1年の所得の合算なので、1年に売却する金額を抑えて、複数年をかけて売却することで、それぞれ900万円以下の所得テーブルに抑えることができるかもしれません。また、節税施策として、仮想通貨の場合は、「仮想通貨の運用のために本を買った」、「セミナーを受けた」などのコストは経費にできるようです。税金の詳細や確定申告については税理士に相談の上申請なされたら良いと思います。

節税を意識しすぎるとリタイアが遠のく?

ただし、節税のために仕事を辞めて収入をゼロにするのはお勧めできません。収入がゼロになっても利益が大きいのでどちらにしても税金は発生しますし、ご自身の収入源がなくなれば生活の安定感や人生の中での選択肢が少なくなってしまいます。

仮に仮想通貨の税引き後の資産が1,300万円になれば、現金200万円と運用資産2,000万円と合わせて資産総額は3,500万円になります。目標の運用資産3,000万円は達成できているので、無理なリスクは取らないでよいでしょう。

3〜4%の配当金を狙っていくのであれば、米国高配当ETFを組み合わせたり、J-REITや、ハイイールド債権などが選択肢になってくると思います。投資対象の状態は金利や市況によって変わる部分もありますが、上記のアセットクラスを研究してみてください。

リタイア後のビジョンもしっかりと

早期リタイアして、何をしたいのかも重要な視点となります。ただただ時間だけがあり、長い人生を食事や生活だけして過ごすというのも、人生を謳歌出来ない可能性もあります。ご自身のやりたいことを見つけ、また、いろいろなライフイベントの可能性も考えると貯蓄一辺倒で最速でリタイアするよりも、人生の満足度は高まるかもしれません。

FIRE(Financial Independence, Retire Early)と言われる、早期の経済的自由を目指すムーブメントがありますが、その中でも「サイドFIRE」や「バリスタFIRE」と言われる、仕事を一部しながらリタイアする方法もあります。十分と思える資産を形成しても、運用していれば理屈通りにはいかずに増減していきますので、資産が少なくなるときは大変不安になるはずです。そのときのためにも、少しでも収入源はあったほうがよいでしょう。また、自己投資をして自分を育てることや、若いときにしかできない経験を積むということも、人生を彩る重要な要素だと思いますので、お金の使い方も含め考えてみても良いかもしれません。

以上、参考になれば幸いです。

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