“インデックス投資ブーム”に危うさも、2021年の投資信託展望

主要な金融商品の2021年相場について専門家に聞く短期集中連載。4回目は、投資のプロに運用をお任せできる「投資信託」です。

コロナ禍で世界経済が大きな打撃を受けた2020年、その一方で株式市場は一時的な急落はあったものの、その後は堅調に推移しました。投資信託を活用した新しい年の投資戦略やトレンドについて、さわかみ投信の澤上龍社長に聞きました。

※ 2020年12月10日の取材内容を元に構成・編集しています。


“ステイホーム”でできた時間がリスク投資を促した

――投資信託運用会社のお立場から、2020年はどんな1年でしたか。

澤上:金融庁が後押ししてきた「貯蓄から投資へ」の流れに加えて、2019年の「老後2000万円問題」で多くの人が不安感や危機感を共有し始めたところへ、突然、コロナ禍で多くの人がステイホームを迫られました。これまで「難しそうだから」「面倒だから」と不安解消を先送りしてきた人たちが、時間ができたことで改めて投資について考え、一歩を踏み出すきっかけになったように思います。

実際にネット証券などでも新規口座開設が相次いだと聞きますし、さわかみ投信でも多くのお買付けをいただきました。今の収入額や将来に不安があるからこそ、リスク投資にもチャレンジしてみようという流れが加速したように感じます。

具体的な商品については、引き続き販売手数料がゼロで、信託報酬が低い低コストインデックスファンドのブームが続いています。このインデックス人気は新しい年も継続するでしょうが、少し危うさのようなものも感じています。

――危うさとは?

澤上:非課税で積み立て投資ができる「つみたてNISA」の対象商品の多くがインデックスファンドであることから、「インデックス投資はリスクが低く、初心者向き」というイメージが浸透しています。しかし、インデックス投資はその名の通り、良くも悪くも市場平均(インデックス)に連動するので、それ自体がリスクが低いということにはなりません。

ここ数年でインデックス投資を始めた人は上昇相場しか経験しておらず、リーマンショックのように長く低迷する下落相場を知りません。次に大きな下落局面が来た時に、経験の乏しいインデックス投資家が持ちこたえられるかが心配ですし、その時に「やっぱり投資なんてギャンブルだ」と思われてしまう可能性があることにも強い危機感を感じています。

相場は常に動くものであり、上昇すれば下落もします。投資はブームでなく生活の一部であるべきで、上がっても下がっても投資は続けるものであることを理解してもらう投資教育をもっと充実させる必要があると感じています。

投資信託のコストについても低い方が有利ではありますが、商品のパフォーマンスをほとんど見ることなく、信託報酬だけを比較するような傾向も残念に感じています。本来は、信託報酬差引後の基準価額がパフォーマンスのすべてですので、表面的な信託報酬比較にとどまらず、暴落相場などを踏まえた長期の基準価額に注目が集まるのが理想です。ただ、日本のファンドで長期実績を持つところはまだ少ないので、理想が現実になるのはもうしばらく先となりそうです。

投資信託は1本に絞り込む必要はない

――ここ数年は、相場変動に応じて機動的に配分を変えたり、買い建てと売り建てを組み合わせて下落相場でも利益を狙う手法を取り入れたりすることで、下落局面での損失を抑える”リスク軽減型”の投資信託も人気ですね。

澤上:選択肢が広がることは、良いことだと思います。さまざまなタイプの投資信託がありますが、良し悪しがあるわけではないので、投資家それぞれがご自分の考え方や相性の合うものを選べばよいと考えます。

ただ、現実に自分がどのタイプの投信や商品を選ぶべきか迷うこともあるでしょう。そういうときは、複数の商品に投資してもいいと思います。たとえば、投資哲学に共感できるもの、パフォーマンスが良いもの、興味ある対象に投資するもの、分散が効いているものなど、気になった商品に実際に投資してみることをおすすめします。

少額で手軽に投資ができるのが投資信託のメリットでもあるので、最初から1本に絞り込む必要はないのです。しばらく投資していると長く付き合えそうな商品がわかってくるので、そこでコアとする商品を絞り込んでいくといいでしょう。

――2020年はコロナ禍で景気が低迷しているのに株価は堅調という乖離が生じた年でした。2021年はどんな年になりそうでしょうか。

澤上:2020年は世界的に実体経済が悪化し、株式市場でも大暴落が起こってもおかしくない年でしたが、一時的な下落で終わりました。これまでの企業の自社株買いに加え、中央銀行による巨額の追加金融緩和によって株価が下支えされたからに他なりません。

こうした無理な延命措置は、長続きするものではないと考えるのが自然です。2021年のどこかで、こうしたツケを払わされる時がくるように思います。世界的な下落相場は、もういつやって来てもおかしくないのです。

リーマンショックから10年以上が経過し、大きな下落相場を経験したことのない個人投資家が増えていることは前述しました。同時に、リーマンショック後に新規設定された多くの投資信託も、大きな下落相場を経験していません。

下落相場は長期で見れば、絶好の買いチャンスであることは過去の歴史を見ても明らかですが、その渦中では狼狽した投資家による損切りが相次ぐものです。

損切りによる解約が続出すると、投資信託は目の前にある絶好の買い場に買い向かうことができず、むしろ大量の売りを迫られます。投資家が離れ、安値のチャンスに買う余力がないと、たとえ後から相場が回復してもその投資信託の回復は非常に難しくなります。

何が言いたいかというと、2021年に来るかもしれない次の下落相場で、生き残るファンドと淘汰されるファンドが明確になる可能性があるということです。

さわかみ投信で積み立て投資をしている投資家は、下落相場も含めて継続していくことの重要性をよくわかってくださっているのですが、残念ながら多くの投資家はそうではありません。相場が盛り上がっている時に高値で買って、下落時に慌てて安値で売ってしまうような残念な投資家層が多いファンドは、危機を迎えそうです。

お手軽インデックスと社会性重視、投資スタイルは二極化へ

――今後はどんな投資信託が人気を集めると思いますか。

澤上:近年はインデックスファンドやロボアドバイザーといったほったらかしでOKなお手軽投資が定着した一方で、環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)といった非財務面の要素も考慮した「ESG投資」などを通して、長期的に持続可能な成長を見込める企業に投資することで個人投資家も社会的な責任を果たそうとする、相反する2つの投資スタンスが定着しつつあるように感じます。

運用会社の立場としては、自らの資産成長と、社会をより良い方向へと変えていくことの両立は、十分可能であると考えます。現状、こうした社会的な責任を重視して投資信託を選ぶならアクティブファンドを選ぶことになります。しかしもっと、ESGの側面で選んだ銘柄群で構成されるESGインデックスといった指数に連動するインデックスファンドが登場してほしいですね。

――2021年の投資を成功させるには、どういう戦略が良いでしょうか。

澤上:まず、1年で結果を出そうとは考えないことです。5年後、10年後の資産形成を見据えて、上昇が信じられる対象に資金を投じましょう。

前述した通り、日本で約6,000本もある投資信託の中でまもなく選別が起こり、生き残るところとそうでないところが見えてきます。投資信託の時価である基準価額や、預かり金額である純資産総額は相場状況に大きく左右されますが、生き残る投資信託は投資家が資金を投じた口数はどんどん増えているものです。

生き残る投資信託を活用し、相場がどう動いても「投資をやめることなく続ける」という2021年の決断が、2030年の自分を助けるということを肝に銘じていただきたいと思います。

さわかみ投信では昔から一貫して長期投資の重要性を訴え続けていますが、単純な株価指数への長期投資では必ず報われるとは限りません。日経平均株価は上昇しているといっても過去ピークの7割程度であり、30年間持ち続けている人は大きく資産を減らしています。

しかしその一方で、例えばトヨタ自動車に投資をしていれば資産は4倍になっています。良い企業に絞って投資をすることで、成果は大きく異なることも覚えておいていただきたいと思います。

ただ、資産形成において最も効果的な方法は、投資ではなく自分自身の収入を上げることです。とくに若い世代においては、自分自身の成長にリソースを投じることのリターンは、どんなに成績の良いアクティブ投信をも上回るでしょう。それを節約と組み合わせて行えば、手元に残る資産は確実に増えるはずです。

そのうえで、お金にも働いてもらう「投資」をしていくのが理想です。若い世代はお金を働かせる投資を少額で行いながら、同時進行で自分自身の成長を志向していくことが、最も効率的な資産形成術なのです。

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