円高傾向続くドル円、来年早々にも反発か 2021年の為替相場見通し

主要な金融商品の2021年相場について専門家に聞く短期集中連載。第2回目は円高傾向が続く「為替」です。 今年の相場はどのように動くのか、大和証券の石月幸雄・シニア為替ストラテジストに寄稿いただきます。


前提が大きく崩れた2020年

この時期、翌年の相場を予想するのが恒例となっています。昨年は、2020年のドル円相場を110円から若干円安水準での揉み合いと予想しました。

その前提として、米連邦準備制度理事会(FRB)がさらなる利下げを行わないことを見込んでいましたが、コロナショックで早々に崩壊。また、原油価格が比較的底堅く推移することで、日本の貿易収支を通じた実需の資金フローは安定的に円売りに寄与するとイメージでした。

ところが、原油価格が値崩れし、日本の貿易収支は改善に向かっています。結局、金利面および需給面ともに前提が完全に外れ、実際のドル円相場の値動きは基本シナリオとはかけ離れたものとなってしまいました。

ワクチン普及で経済正常化なるか

それでは、2021年のドル円相場はどう推移するのでしょうか。足許では依然として新型コロナウイルスが猛威を振るっているものの、市場の視線がその先を見据えているのは言うまでもありません。新型コロナワクチンの早期普及による経済正常化です。

一方、FRBのパウエル議長は12月1日の議会証言で、コロナワクチンの生産、供給や効果などで大きな課題と不確実性が残ると述べ、慎重な姿勢を維持しました。そもそも論として、たとえワクチンが期待通りあるいはそれ以上の効果を発揮しても、米国経済が完全にコロナ前の姿に戻ることはないのかもしれません。

ちなみに、12月15、16日に開かれた米連邦公開市場委員会(FOMC)では、「雇用最大化と物価の安定という目標に向け顕著な進展があるまで資産購入額を維持する」という新たなガイダンス(指針)が導入されました。曖昧さが残る表現ながら、市場は量的緩和策の縮小にはかなり時間がかかるとの感覚を持ったようです。

いずれ訪れる量的緩縮小策は

とは言え、いずれは訪れるはずの量的緩和策縮小に当たって、FRBが最も恐れているのは「バーナンキショック」の再来でしょう。2013年5月、当時のバーナンキFRB議長がやや唐突に資産購入ペースを段階的に縮小する可能性に言及し、世界の金融市場は激しく動揺しました。こうした混乱を避けるべく、今回のFOMC後の会見でパウエル議長は、債券購入の縮小は事前に余裕を持って警告すると述べています。

しかし、そうすることで金利が上がりやすくなるリスクがあります。例えば、実際に緩和縮小に着手するのは来年後半だとしても、市場は状況次第ではFRBの予告を先回りして織り込みに行くことになるでしょう。

足許の新型コロナウイルス感染拡大を乗り切った後、来春にはそうした状況が見込まれます。米国長期金利は当然上昇するでしょうが、FRBが重視するのは水準ではなく、ペースだと思われます。

ドル円相場と日米長期金利差は常に連動するわけではありませんが、米10年国債利回りが1.25%を超えて1.5%を目指すような展開になれば、相応に円安ドル高を支援する材料となるでしょう。

国際商品市況はドル円の底打ちを示唆

もちろん、景気回復ペースが加速しても、FRBが頑なに金融緩和姿勢を緩めない可能性も考えられます。その場合、米長期金利の上昇はある程度抑制されますが、代わりにリスク資産の過熱は避けられないでしょう。特に国際商品への過剰流動性流入が想像され、為替市場への影響も多大なものになるとみられます。

一般に国際商品価格が上昇すれば、資源輸出国通貨に恩恵が及びます。逆に資源輸入国通貨にとっては逆風となります。日本は典型的な資源輸入国であり、その意味で円は巷で考えられているほど強固な通貨ではないでしょう。

代表的な国際商品価格の指標であるCRB指数とドル円相場の値動きはこれまで、6ヵ月の時間差を置いて高い連動性が窺えました(下図)。

コロナショック後、原油価格が一時マイナスに転じましたが、こうした不規則な値動きを除けば、現在でも両者の連動性は失われていないとみられます。すでにCRB指数は先んじて上昇に転じており、ドル円相場の底打ち反発を示唆しています。今後、イメージするのは同指数のさらなる上昇であり、円安の進行です。

ドル円は1-3月期を底に反発を予想

結局、米国経済の急回復を見込む限り、米金利と国際商品価格のどちらかあるいは両方が上昇することになり、円安ドル高という結論が導かれます。

来年の為替相場は、コロナ後の世界をどうイメージするかがポイントですが、パンデミックという想像以上の出来事があった今年ほどは予想が的外れにならないと信じたいところです。

とは言え、FRBのパウエル議長が指摘するように新型コロナワクチンにリスクがないわけではありません。その他、米中対立の激化が景気回復に水を差す可能性もあるでしょう。
加えて、FRBによる金融引き締めが早すぎた場合、至る所で信用不安を巻き起こすこともないとは言えないでしょう。リスクはあらゆる所に潜んでおり、様々なシナリオを用意しておくに越したことはありません。

ドルは上昇へ

なかなか一筋縄ではいかないことも多いですが、最後に2021年のドル円相場の基本シナリオをまとめておきたいと思います。

足許の新型コロナウイルスの感染拡大や、ドル安トレンドの継続を見込む根強い市場センチメントに鑑み、1~2月は円高リスクが残るでしょう。その後はドルが上昇に転じ、4~6月期には一旦110円に接近する場面も想定。

そのまま、同水準を中心とした揉み合いが続き、年末時点では1ドル=111円付近での着地を見込んでいます。

<文:投資情報部 シニア為替ストラテジスト 石月幸雄>

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