相場をけん引するGAFAMに死角はあるのか、2021年の米国株展望

主要な金融商品の2021年相場について専門家に聞く短期集中連載。3回目は、史上最高値を更新し続ける「米国株」です。

米国は新型コロナウイルスの感染者が世界最多で、最も大きな打撃を受けた国です。その一方で、2020年のNYダウやS&P500といった主要株価指数は史上最高値を更新し続けています。

実体経済とのかけ離れた上昇を見せる株式市場は、バブルなのでしょうか。米国株に詳しいマネックス証券の岡元兵八郎チーフ・外国株コンサルタントに、2021年の米国株の行方と投資戦略について聞きました。

※ 2020年12月11日のオンライン取材内容を元に構成・編集しています。


疑心暗鬼を抱えながら、株価が上昇した2020年

――2020年は新型コロナウイルスの感染拡大に加え、大統領選という大きなイベントもありました。振り返って米国株はどんな相場だったでしょうか。

岡元:一言で言えば、不安だらけの1年でした。なにしろ、年初にはだれもがトランプ大統領の再選を信じて疑わなかったほど、米国経済はベストな状態にありました。そこに突然、新型コロナウイルスの脅威が株式市場を襲ったわけですから。

2~3月の急落の後、株式市場は上昇に転じましたが、それでも市場関係者は二番底への不安をぬぐい切れず、ずっと疑心暗鬼を抱えていました。

企業業績は、ロックダウン期間と重なった第二四半期(4~6月)は大幅に悪化したものの、第三四半期(5~7月)は市場が懸念していたほどの落ち込みはなく、回復のきざしが見られました。不安を抱えながらも、回復を示す数字を確認しながら、少しずつ上昇を続けていったというのが2020年の米国株相場だったと思います。

――その割にはNYダウが史上最高値となる3万ドルを達成するなど、株式市場の上昇が目立ちました。これはバブルではないかという指摘もあります。

岡元:もちろん、金融緩和やゼロ金利といったマクロ環境に支えられた側面は大きいですし、株価水準はバリュエーション的にはやや割高ではあります。しかし、それだけでこれがバブル相場であるという解釈するのは、間違っていると思います。

株式市場は、足元ではなく未来を見て動くものです。今回、コロナ禍という極端な悪材料に見舞われて経済が大幅に低迷しましたが、原因がはっきりしているだけに脅威が収束すれば経済も回復すると考えるのが自然です。

実際、企業業績や経済指標は着実に回復を示しており、この上昇は未来の経済回復と成長を先取りし、2021年への期待を原動力にした上昇だと考えます。

2021年も二桁成長が期待される米国株市場

――新しい年も、強い相場が期待できるでしょうか。

岡元:結論を言えば、来年も米国株は二桁の上げが期待されます。企業業績や経済が着実に上向いているところに、ワクチンも本格普及が始まりますし、ウイルスの脅威が遠のくにしたがって株価も上昇していくでしょう。NYダウのEPSは2021年には前年比で23%の増益が予想されています。

また、2020年はコロナ禍で企業が投資を一斉に抑制し、自社株買いも4月以降激減していました。2021年にはこれらの再開も見込まれ、株価上昇要因のひとつとなるでしょう。また、95兆円規模になるとも報じられているバイデン新大統領の追加経済対策も、株式市場を下支えすると期待されます。

ただ、経済が順調に回復すれば、利上げなど金融緩和の出口が意識され、株式市場がネガティブな反応を示す可能性はあります。しかし、米FRBは2023 年末までは政策金利を据え置くとしています。金融政策の正常化による悪影響はいつかは心配しなければならないことですが、2021年はそれには当たりません。

とはいえ、どんなに強い相場でも一本調子で上昇し続けることはありませんし、その過程で株価が調整する局面はあるでしょう。こうした局面は長期的にはチャンスであり、「下がったら買い」のスタンスで臨んでよいと考えています。

――2021年は民主党のバイデン新大統領の新政権がスタートします。バイデン氏は企業に対する増税や規制強化など、株式市場にネガティブな政策を打ち出していました。

岡元:マーケットが恐れていたのは、大企業への規制強化や増税です。しかし、大統領選と合わせて実施された上院下院議員選挙の結果、議会上院は共和党、下院は民主党が過半数を維持する「ねじれ」が生じることになりました。このため、結果的に株式市場にネガティブとなる政策を実現するのは現実的に難しいでしょう。

また、ここ数年の間、金融市場に暗い影を落としてきた米中関係に関しても、交渉上手なバイデン氏が敵対的な態度で臨むことは考えにくく、大きな摩擦に発展する心配も少ないと考えます。

GAFAMは「長期安定成長銘柄」

――これまでの米国株上昇は主にGAFAM(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン、マイクロソフト)がけん引してきた反面、これらの銘柄を除いた市場全体の上昇率は必ずしも高くはなく、”S&P495” と揶揄する声も聞かれました。新しい年は、GAFAMとそれ以外の銘柄の株価成長はどうなると予想されますか。

岡元:ご指摘の通り、ここまでの米国株上昇のドライバはGAFAMでした。ただ、この5社の株価上昇は、コロナ禍の有無にかかわらず収益を大きく伸ばしたことが背景にあります。業績成長に裏付けされた上昇であり、かつてのITバブルとはまったく異なります。

また、2020年前半まではグロース株が買われる相場が続き、バリュー株が出遅れる状況が続いていましたが、11月からはバリュー株が買われて相場を押し上げました。これは、グロース株の上昇が止まったというより、ローテーションがうまく回り始めたことを示しています。

GAFAM銘柄が2021年に大きな上昇が期待できる銘柄とは思いませんが、10年先を見て投資するべき長期安定成長銘柄であると考えています。もし、新しい年にGAFAMが下落するような局面が来たら、絶好の買い場でしかありません。

今後も新興国の人口増に伴って彼らのマーケットは拡大していきますし、経済成長が伴えば料金も上げられます。いずれも未来を見据えて次の一手を打てる企業群であり、大きな死角は見当たりません。

バイデン政権で規制が強まることを懸念する声もありますが、前述した議会のねじれで実現は難しいですし、それがなかったとしても最終的に規制をかけるという結論には至らないでしょう。今、GAFAMが戦う相手は中国であり、彼らに規制をかければ米国の国益に大きなマイナスとなるからです。

GAFAMに限らず、グロース株がまた大きく買われる局面は来るでしょうし、こうしたローテーションをこなしながら全体が上昇していく相場が続くと考えています。

――どんなセクターや銘柄に注目していますか。

岡元:これまで割安に放置されていたセクターに注目しています。具体的には、金融と石油です。

経済回復の恩恵を真っ先に受けるのは、金融機関です。政策金利は当面据え置かれても、経済の回復過程では長期金利は上がっていきます。この差が広がれば、金融機関の利ザヤが大きくなります。また、米国の金融機関は傘下に証券会社もあり、経済回復で投資が活発化した場合の恩恵も受けられます。

同様に、石油株も経済回復局面で業績改善が期待できます。2020年は景気低迷に加え、再生エネルギーに力を入れるバイデン氏の公約で売り込まれてきましたが、ここに見直しの動きが出てくるでしょう。

新大統領がいくら再生エネルギー活用に力を入れたとしても、石油の需要がなくなることはあり得ませんし、米国以外のグローバルな経済回復で需要はむしろ高まります。

――不安要素やリスクはどんなものがあるでしょうか。

岡元:最も心配しているのは、ワクチンに重大な副反応が確認されるような事態です。新型コロナ収束の切り札だったワクチン接種を進められないような事態が起これば、経済にも株式市場にも相当ネガティブな影響が出るのは避けられません。

また、ワクチンが普及しても期待したほどには経済回復が進展しないという事態も考えられます。ただ、これに関しても私は大きな心配はしていません。というのも、2020年春に米国で各州が順次ロックダウンに入っていた当時、ムニューシン米財務長官がテレビで、「今回、米政府の責任で経済を止めた。だから、政府が責任をもって元に戻す」と発言していたのが印象に残っているからです。

もし、経済回復の進みが遅いようなことがあっても、政府は強い姿勢で追加対策をしてくるでしょう。米国はそういう国であり、政権が変わってもこうした方針は変わらないはずです。

インデックスを「コア」、個別銘柄を「サテライト」とする投資を

――日本の個人投資家はどんな戦略で2021年の米国株相場に向き合うと良いでしょうか。

岡元:米国は人口が長期的に増えていく上、世界をリードする経済大国で、長期的な目線で投資するのに最も適した対象です。S&P500やナスダック100といった主要指数に連動する投資信託を毎月積み立て、これを資産形成の「コア」としていきましょう。

個人投資家は、相場が上昇すると「高値づかみをするのでは?」と不安になり、下落すると「もっと下がるのでは?」と感じて投資ができないことがあります。しかし、そんなことを言っているといつまでたっても資産を増やせません。

ベストな投資タイミングは後になってからでないとわかりませんが、だからこそ分散して購入し、とにかくポジションを作っていくことで上昇の恩恵を受ければよいのです。

マネックス証券では、毎月積み立てだけでなく、毎日の積み立て投資にも対応しています。毎月の積立と毎日の積立はどちらが有利なのかはわからないので、私はその両方を試しているところです。その結果は動画で配信していく予定なので、ぜひそちらもご覧になってください。

ただ、淡々と指数に積み立て投資をするだけではつまらないという人もいるでしょう。こうした方は、「サテライト」として、少額の資金で個別銘柄やテーマETFの短期トレードにもチャレンジしてみてください。投資テーマについては、クラウド、水、クリーンエネルギー、サイバーセキュリティなどに注目していますが、皆さんご自身が有望と感じる対象でOKです。

また、2020年はIPOが400社超とITバブル以来の活況でした。12月に上場した民泊のエアビーアンドビーの時価総額は日本円で10兆円に達するほどIPO市場が盛り上がった1年でした。

新しい年にも有望な銘柄や大型案件が多く出てくると予想され、年前半にはマッチングアプリのバンブル、オンライン買い物代行のインスタカート、モバイルゲームのアップラビンなどの上場が期待されます。

こうしたIPO銘柄で興味を惹かれるものがあれば、サテライト用の資金で投資を検討するのもよいでしょう。

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