残業ナシ、ノルマなし、期限ナシ。個人の頑張りに頼ることを徹底的に止めて、それでも10期連続で最高益を達成した上場企業があります。ワークマンです。いったいこの会社では何が起こっているのでしょうか?前回に引き続き、ワークマン専務取締役初の著書『ワークマン式「しない経営」――4000億円の空白市場を切り拓いた秘密』(ダイヤモンド社)から抜粋して紹介します。
社内行事はしない
社内行事は大きな組織で一体感を出す目的で行われる。
だが、当社は社員数が330人ほどで、社員同士はよく知っているし、コミュニケーションの密度も深い。そこで社内行事は一切やめた。
社内行事の準備から解放された社員は「他の仕事ができるようになってよかった」と言っている。
ランチ会や飲み会は、社員が自主的に行うことはあっても、会社として行うことはない。上司が飲み会に誘って、そこで仕事の話をしたらストレスになるだけだ。
昼間の仕事で互いに話しているのに、夜まで同じメンバーで話す意味はない。夜にならないと本音を言わない人、酒を飲まないと言いたいことが言えない人は、根本的に仕事に向いていない。
立命館アジア太平洋大学の出口治明学長によれば、日本人は年間2000時間近く働いているのに平成の30年間でGDP(国内総生産)成長率はたったの1%程度。対するフィンランド人は16時、17時に仕事をやめて帰宅する人が多いのに、一人当たりGDPは日本の約1.25倍もあるという。
仕事が終わったら家族や社外の友達などとリラックスして時間を使うべきだ。
ワークマンでは社内だけでなく外部との飲み会もしない。年始の賀詞交換会もやめた。賀詞交換会では取引先が年賀の挨拶をして名刺を置いていく。これも価値を生まない時間なので廃止した。商談が必要なら別の日に設定したほうが有効だ。
あらゆる無駄を廃止し、それでなんらかの支障が出たら復活させればいい。まずはやめることが大切だ。
会議も出張時の送迎も極力しない
毎月2回やっていたSVの全国会議は2か月に3回にした。
SV同士のコミュニケーションは活発で、何かあるたびにオンラインで情報共有しているので、会議の頻度が減ってもまったく問題はない。毎週やっていた営業会議は2週に一度にした。月次会議は四半期会議にした。
一般に、会社の中に価値を生まない仕事は8割あるといわれている。だから、気づいたときに無駄をなくす。報告書は1枚にする、文書にしないで口頭で報告する、社内文書の校正はしない。「てにをは」が間違っていたり、漢字の誤変換があったりしても気にしない。全国の若手SVと交流するときには「しない経営」を浸透させる絶好の機会でもある。
以前、私が出張で広島市内の加盟店に同行することになった。SVがJR広島駅前のホテルまで車で迎えにいてくれるという。でも、私は「それは無駄だから」と店舗集合にした。
自分でJRの最寄駅まで行き、駅から2、3km歩いた。店舗で会えばSVは時間を無駄にせず加盟店巡回ができる。訪問が終了したら駅まで送ってもらわなくてもいい。
SVは1時間半いるが、私は店長と30分話せば十分に課題がわかるので、話が終わったら一人で帰ることにしている。
このように上司を車で迎えにいくのは無駄だという考え方を社内に浸透させる。送迎にかける時間をもっと有効に活用すべきだ。
経営幹部は極力出社しない
会社の中で付加価値を生まない時間をどんどん削っても、生産性が上がらないのはなぜか。それは付加価値を生まない時間をつくる人がいるから。
その犯人は経営者や幹部だ。
優秀な経営者や幹部ほど、社員の余計な仕事をつくる。思いついたことをまわりに言うと、経営者や幹部の言うことだから関心を持たざるをえない。
たまたまエチオピア経済のニュースを見た経営者が、「エチオピアが熱いというが、アパレルは生産しているのか?」と部長に聞く。
部長は忖度して「さっそく調べます」と言って、自分の部下に「明日までにエチオピアで生産しているアパレル業者についてレポートをまとめてくれないか」と仕事を振る。
部下は自分の仕事をいったん止め、ネットでエチオピアのビジネスをリサーチする。結果として、エチオピアは関税面でアメリカにもヨーロッパにも有利に輸出できる有望な産地とわかる。でも会社には差し迫ったニーズはない。なにしろ遠すぎる。
たまたま聞きかじったトレンドの調査を部下に投げるなんて一番やってはいけないことだ。その分、継続的な重要テーマへの時間が削がれる。必要なら部下に振らないで、自分で調べればいい。
そのために、経営者や幹部は現場に行って極力出社しなければいい。
現場で発見したことは長短あるが、どこかで聞きかじったテーマより重要性が高い。
現場には改善と改革のヒントが隠されている。経営者が新しいテーマを出してもいいが、1年で数回程度にすべきだ。それまでじっと我慢してため込む。その間に忘れたら重要性が低い証拠だ。
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社員のストレスになることはしない。ワークマンらしくないことはしない。価値を生まない無駄なことはしない。「しない会社」が、どのようにブルーオーシャン市場を発見し、客層拡大して業績を上げたのか。どのように自分の頭で考える社員を育てたのか。