“総資産5億円”不動産投資家が語る、価格交渉の前に作るべき「データベース」

不動産投資では、さまざまなテクニックが必要になります。そのひとつが「価格交渉」。ここで必要なノウハウは、不動産に限らず、一般のビジネスや交渉シーンでも使えるかもしれません。そこで話を聞いたのが不動産投資家の束田光陽さん。総資産5億円を達成し、ファイナンシャルアカデミー「不動産投資スクール」講師も務める束田さんに、価格交渉のエピソードを聞きました。


価格交渉の大前提は「相場観を持つ」こと

――不動産投資といえば、数百万円から数千万円、時には“億”を超える物件を購入しますよね。そのときの「価格交渉」のテクニックはどんなものなのでしょうか。ぜひ教えて欲しいです!

それなら、ちょうど良いエピソードがあります。数年前に購入を考えた物件の話ですが、価格交渉の基本を伝えられるかもしれません。

――それは聞いてみたいです。どんなエピソードですか?

あるとき、興味を持った物件がありました。仮にその物件をAとしましょう。関東近郊で、駅から徒歩10分以内の立地。価格は580万円で利回りは15%を超えていましたね。利回りとは、購入価格に対し、1年間の家賃年収が何%になるかという指標です。

さて有井さん、ここから価格交渉の話です。なのですが、価格交渉をする前には絶対やっておくべきことがあります。

――なんですか?

似た物件をたくさん見て、相場観を養うことです。そうしないと、そもそも物件Aが高いか安いか、相場が分からないじゃないですか。

――確かにそうですね。

例えば高級腕時計を質屋さんで売ったり買ったりすると仮定しましょう。その腕時計の相場がわからないと金額交渉のしようがないですよね?どのくらいの金額が一般的なのか、基準がないのですから。質屋という例えはちょっと古いかもしれませんが(笑)

――質屋に入れたことはないですが、意味はわかります。

不動産も同じなんです。価格交渉をする以前に、大前提として、このタイプの物件が高いか安いかを判断できるようにしないといけません。そして、自分が考える相場より高ければ交渉する価値はありますが、安ければ交渉する意味はあまりない。むしろ、値切っている間に他の人に買われるかもしれません。すでに十分安いんですから。

安い物件を価格交渉すれば、ライバルに奪われる

――確かに……。でもどうやって相場観を養うんですか?

不動産を探すとき、ターゲットにする物件の条件を細かく決めることです。予算はいくらにするか。中古と新築はどちらか。一棟丸々買うのか、一戸のみ販売される「区分マンション」を買うのか。エリアはどこにするのか。

これらの条件をかっちり決めて、当てはまる不動産をひたすら見続けます。すると、そのタイプの物件の相場、価格帯がつかめるようになってくる。だいたい1000件くらいは見て、自分の中にデータベースを作るべきですね。

――1000件ですか……! ちなみに「新築か中古か」と言いましたが、分けて考えないとダメないんですか? 同じ不動産なので、そこまで違いはないかと思い……

ダメですね(笑)。不動産の新築と中古は、見るべきポイントが全然違うんです。新築なら1億円のタワーマンションがある一方で、中古なら1,000万円の築古のアパートがあったりします。新築と中古では、まったく違う世界が広がっているんです。私も中古物件には精通しているつもりですが、新築の知識には自信がありません。

――そうなんですか……。じゃあとにかく物件の条件を決めて、1000件見ることが大事と。

はい。それが価格交渉をする大前提の知識です。これをやっておかないと交渉はうまくいかない。初心者の方はそこでまず躓くんですね。価格交渉する前に、データベースを作れ!これが鉄則です。

さて、物件Aの話に戻りましょう。この販売価格が相場より高いと思えば交渉すべきですし、安ければ、さっさと次に進まないとライバルに奪われる。私はこの時点で「比較的安いかな」と思いました。とはいえ半信半疑だったので、2つ目の方法を使って価格を考えることにしました。

不動産は、過去の販売価格の履歴が観られる

――2つ目の方法とは?

過去にこのマンションの物件がいくらで販売されてきたか、履歴を調べたのです。ホームズの「不動産アーカイブ」というサイトは、過去の不動産価格のデータベースになっていて、同じマンションの他の部屋の売出し価格履歴がわかるんですね。

この手法も、物件を買う際の常套手段です。自分が1000件の物件を見て身につけた「マクロ」の相場観と、目をつけたそのものの「ミクロの相場観」の双方から価格交渉の余地を調べるんですね。

――大きな視点と小さな視点というイメージですね。調べた結果、どうだったんですか?

このマンションで、だいたい同じ広さの部屋の履歴を見ると、今回の売出し価格、580万円は過去安値でした。高いときは2倍以上で売られていたこともあります。ただ注意したいのは、この履歴はあくまで売出し価格であり、成約した価格ではないんですね。だから、高い価格で売った過去があったとしても、買い手はつかなかったかもしれません。

――確かに……、あくまで目安の情報という位置付けですかね?

そうですね。とはいえ、マクロで見てもミクロで見ても比較的安いと思いました。じゃあ次にどうするか。ここまで調べても価格交渉はしません。なぜなら、一度不動産会社さんに価格交渉すれば、成功したときに買わないといけなくなります(笑)。当たり前ですよね。交渉したのに「やっぱり買いません」はできない。となると、慎重な判断が必要です。

そこで、この物件に買う価値があるのか、もう少し見極めることにしました。

物件Aの価格交渉エピソードは、次回も続きます。

© 株式会社マネーフォワード