「保守分裂」でも「現職が街頭に立たない」コロナ禍の知事選!雪国・岐阜県が今アツい!【4】(フリーライター・畠山理仁)

一方、活発に街頭での活動を続けているのが江崎禎英氏だ。江崎氏は告示日に岐阜市、大垣市、羽島市で出陣式を開いている。筆者が取材した大垣市での出陣式には約500人、羽島市の出陣式にも約100人近くが集まった。

大垣市での出陣式会場となったホテル駐車場に入る際には検温を受けた。そして消毒液が用意された受付で住所と連絡先を書いてから入場することになっていた。

大垣市の出陣式で司会を務めたのは大垣市選出の伊藤秀光県議(自民)だ。県議選では猫田氏と同じ選挙区(定数4)で戦ってきたライバルだが、今回の知事選では江崎氏支持で同じ陣営にいる。その伊藤氏が聴衆に呼びかけた。

「まずもって、我々日本人、日本があるのは、やはり天皇陛下のおかげだと思っています! 今日1月7日は、昭和64年1月7日に昭和天皇がご崩御されました。そして平成の御代がスタートした日であります。令和のスタートに岐阜県に新しい知事誕生をというのも、奇しき縁だと思います。皆様とともに、昭和天皇を偲んで黙祷を捧げたいと思います。よろしくお願いをいたします。黙祷!」

これが岐阜県自民党スタイルなのだろうか? よそ者の私が戸惑いながら周囲を見渡すと、会場に集った人たちはみんな黙祷をしていた。しばしの静寂の後、再び伊藤県議が叫ぶ。

「感無量になりました! 本当にありがとうございます! ありがとうございます!」

出陣式で最初に挨拶に立ったのは、江崎氏擁立の立役者でもある猫田県議だ。

「我々は挑戦者であります! 今度の選挙、何が何でも勝たなければなりません。どうか力いっぱい、元気いっぱい、挑戦者として正々堂々と戦ってまいりますので、みなさんのお力を最後までいただきますように心からお願いを申し上げます」

猫田氏の演説は極めてシンプルだった。続いて岐阜県選出の国会議員で唯一、江崎氏を支援する大野泰正参議院議員、地元市議らの挨拶があり、最後に江崎氏がマイクを握った。

「先ほど無事立候補してまいりました。番号、1番引いてまいりました。1番です!」

大垣市での出陣式で「1番です」と高く指を掲げる江崎氏

江崎氏が人差し指を高く掲げると聴衆が大きな拍手で応える。演説では新型コロナの話題が最初に来る。江崎氏はマウスガードを曇らせながら、力を込めて訴えた。

「コロナの不安、その先にある未来への不安、これを何としても取り除きたい! 自粛自粛だけでは、残念ながらコロナは終わらせられませんでした! コロナについての正しい知識を持ち、正しく恐れ、手洗い、消毒、マスクによって、これを大きく抑える。そして皆さんが協力していただくことによって、コロナを終わらせられるんだということを、ぜひ皆さんで示してください。私たちもそれを示していきたいと思います」

「コロナの終わらせ方、この岐阜県のモデルを作ることによって、日本全体を幸せにすることができます! この選挙戦自体が政策なんです!」

何度も大きな拍手が起きる。現場に足を運んだ人たちはものすごく盛り上がっている。しかし、ここでも「外への広がり」が目に見える形では感じられない。かつての選挙戦で見られたような、通りがかった人をも巻き込む「街頭でのうねり」が見えにくくなっている。だからどの陣営もハッキリとした手応えを感じにくい。これがコロナ禍における選挙戦の大きな特徴である。

県庁前で演説する稲垣豊子氏

今回の岐阜県知事選挙には、初めて女性が立候補している。それが共産党の推薦する元教員の稲垣豊子氏だ。私は告示日に稲垣氏が岐阜県庁前で演説する様子を取材した。

稲垣氏は新日本婦人の会岐阜県本部会長として、過去5年間で22回、県議会に請願を出してきたという。「すべて県議会で否決されてしまった」というが、県立学校へのクーラー設置など、議会否決後に県庁職員の尽力によって実現したものもあるという。

「議会で否決されても、ちゃんと県庁の中に応援団がいて、やっぱり県民のために働いてくださる。本当に嬉しく思ったものです」

稲垣氏は選挙カーの前でマイクを握り、県庁職員に訴えかけた。昼休みの時間だが、外には誰も出てこない。風も強いし寒いからだ。選挙カーの側に立って県庁の方を見回してみたが、聴衆の姿は見つけられなかった。それでも稲垣氏は丁寧に話を続けた。

「イベント、やりすぎではありませんか。ハコモノ行政、やりすぎではありませんか。働く人にとって、やはり県庁が働きやすい職場でなければなりません。そして知事と県議会が対等の立場でお互いに意見を言い合う県政でなければならないと思います。県政与党のみなさんと知事が県民の思いを無視して、自分たちの都合のいいように県政を動かしていく。そういう時代は、もう『なし』にしようじゃありませんか!」

稲垣氏の演説が終わった後も、選挙カーの回りには報道陣しかいなかった。目に見える形での有権者との交流もない。それでも精力的に各地で街頭演説を重ねている。

こうした街頭演説の予定を事前にSNSで告知しているのは、稲垣氏と江崎氏の陣営だ。古田氏は日々の公務報告を詳細にFacebookにアップしている。新田氏はTwitterで活動記録を報告している。どの候補者も感染症対策に気を使いながら、なんとか有権者とのコミュニケーションを図ろうとする工夫が見て取れる。

江崎氏は、聴衆が車に乗ったまま演説を聞く「ドライブインシアター形式」での街頭演説会も行なった。LINEのアカウントも開設した。それだけでなく、YouTube Liveでの中継や、支援者の呼びかけに応じてオンラインでの質疑応答機会も作っている。

県庁での公務を優先している古田氏も、有権者に自分の声を伝える努力は怠っていない。選挙戦が進むにつれ、公務の合間を縫い、街頭演説に「スマホで登壇」(電話での会話を現地のマイクで拾う)するなどの工夫をしはじめている。

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