スガノミクス「グリーン成長戦略」で資金が流入しそうな4つの注目産業とは

地球温暖化を原因とした気候危機が、世界各地で頻発しています。台風の巨大化による暴雨など、かつてなら「100年に一度」と言われた異常気象は毎年起きるようになっています。

シベリアでは2020年6月に気温が38℃まで上昇しました。永久凍土が融解すれば、大量のメタンガスが放出され、気候変動は更に進行してしまいます。炭疽菌のような細菌やウイルスが解き放たれるリスクもあります。

危機が連鎖反応を起こし、人間の手に負えなくなる(ポイント・オブ・ノー・リターン)前に、気温の上昇を産業革命前と比較して1.5℃未満に抑えることが、ぜひとも必要と言えるでしょう。

今回は、カーボンニュートラル(温暖化ガスの排出量と吸収量の総和をゼロにする)を目指す中で、成長が期待される分野とESG投資について紹介します。


洋上風力・水素発電で「脱炭素化」へ

温暖化で行き場を失うのはホッキョクグマだけではありません。気温上昇が4℃まで進めば、東京や大阪の河川域は高潮で冠水し、沿岸部を中心に日本全土の1,000万人に影響が出るとの予測もあります。

2020年10月、日本は「2050年カーボンニュートラル」を宣言。12月25日には「経済と環境の好循環」を作っていく産業政策として、「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を公表しました(今春改訂予定)。

電力部門は「脱炭素化」を目指していきます。洋上風力発電など再生可能エネルギーを最大限導入し、50年には再エネによる発電割合を50~60%程度、水素・アンモニア発電を10%程度としています。

残りの40~30%程度を“火力発電+「二酸化炭素(CO2)回収(=CO2濃度の高い排ガスからCO2を回収し、地中や海中に貯留する技術)」”と原子力でまかなうと想定。中期的には、

水素発電を選択肢として最大限追求していく計画です。

カーボンニュートラルは、「電化社会」

非電力部門(産業、運輸、業務・家庭)では、「電化」が中心となると考えられます。電化によって、50年の電力需要は現状より30~50%増加する見通しです。カーボンニュートラルは電化社会であるともいえるでしょう。

産業部門では、水素還元製鉄など製造プロセスの改革や製造自動化(ロボットなど)を推進します。また、運輸部門では、電動化やバイオ燃料、水素燃料の利用や、自動運行(車、ドローン、航空機、鉄道)が活用されそうです。業務・家庭部門は、電化、水素化、蓄電池の活用に加え、スマートハウス(再エネ+蓄電)やサービスロボットなどの利用を推進していきます。

「成長が期待される産業(14分野)」の中でも、再エネ分野では洋上風力、省エネ分野では水素、自動車・蓄電池、グリーン成長戦略を支える強靭なデジタルインフラとして、半導体・情報通信産業などの成長が期待されるでしょう。

経済効果は30年に年額90兆円

政府は今後、全ての分野で技術開発から社会実装と量産投資によるコスト低減を図ってい
く方針です。この戦略により30年に年額90兆円、50年で年額190兆円程度の経済効果が見込まれています。

具体的には、グリーンイノベーション基金(10年間で2兆円)の設定により、技術開発から実証・社会実装まで一気通貫で支援していく方針です。これを呼び水に、民間企業の研究開発・設備投資15兆円程度を誘発。さらに大胆な税制支援により10年間で約1.7兆円の民間投資創出効果を見込んでいます。

ESG資金の呼び込みへ

パリ協定の実現には、世界で最大8,000兆円が必要だと試算されています(IEA、国際エネルギー機関)。再エネに加え、省エネなど着実な低炭素化(トランジッション)や革新的技術に対して、資金を供給すること(ファイナンス)が必要です。

政府は一足飛びでは脱炭素化できない多排出産業向けにロードマップを策定し、長期資金供給の仕組みと成果連動型の利子補給制度(3年間で1兆円の融資規模)や「グリーン投資促進ファンド」(事業規模800億円)を創設しました。

さらに、今後、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の位置付けを明確化し、企業による積極的な環境関連情報の開示を促す方針です。ESG投融資には、企業が気候変動のリスク・機会を認識し経営戦略に織り込んでいるか判断するための情報が重視されるためです。

日本政府による環境整備は、世界のESG資金3,000兆円の取り込みに繋がると期待されています。国内のESG資金は約300兆円と3年で6倍に増加。3大メガバンクも今後、30兆円の環境融資目標を掲げています。

カーボンニュートラルの実現に向けた企業の取り組みを後押しする力として、金融が果たす役割は大きいと言えるでしょう。

<文:チーフESGストラテジスト 山田雪乃>

© 株式会社マネーフォワード