D・クローネンバーグ 「クラッシュ」が受けた「卑猥」「破壊的」の言葉に 「いい意味に聞こえるだろ?」

自動車事故によって性的興奮を覚える人々を描いたデヴィッド・クローネンバーグ監督作「クラッシュ」が、製作から25年を迎える本年の1月29日より、「クラッシュ 4K無修正版」として劇場公開される。公開を前に、クローネンバーグ監督によるコメント映像や、著名人からのコメントが公開された。

クローネンバーグ監督は、1996年のカンヌ国際映画祭で「クラッシュ」が上映された際に大騒動となったことを振り返り、「ポルノのよう」「汚らわしい」「卑猥」「破壊的」と評されたことを明かしながら、「いい意味に聞こえるだろ?」とコメント。さらに、原作者のJ・G・バラードが、「クラッシュ」のおすすめの鑑賞方法について、「一番いい鑑賞方法は時速100マイルで走行する車の中だ」と言ったエピソードを披露し、映像を撮影しているのはテスラの車内で、テスラでは70インチでHD画質が楽しめることから、実現可能であることを語っている。

あわせて公開された著名人からのコメントでは、監督作「鉄男」製作時にクローネンバーグ監督の映画が大きな影響を与えたという映画監督の塚本晋也は、「エロティシズムとフェティシズムの冷たい官能が、美しい映像になって蘇るー。楽しみです」とコメント。フェティシズムをテーマにした作品で知られるマンガ家でゲイ・エロティック・アーティストの田亀源五郎は、「危険な体験ではあるが、生と死の交錯から薫るセックスの甘美さは、確かに私を酔わせてくれた」と称賛を送っている。

「クラッシュ」は、第49回カンヌ国際映画祭で審査員特別賞を受賞し、フランスの映画雑誌「カイエ・ドゥ・シネマ」が選ぶ1996年の映画ランキングでは1位を獲得。さらにマーティン・スコセッシ監督が選ぶ1990年代のベスト映画にもランクインするなど多くの称賛を浴びた。一方で、過激な性描写にイギリスの新聞「デイリー・メール」紙が1面で上映禁止を呼びかけるなど、賛否両論を巻き起こした。

【著名人コメント全文】

■鈴木真人(自動車ライター)
自動車は性的なメタファーとして語られることが多い。『60セカンズ』ではニコラス・ケイジが1967年型シェルビー・マスタングをエレノアと名付けて女性のように扱っていた。『クラッシュ』では、男女とも、に自動車事故に性的高揚を覚える。プリミティブな欲動に満ちているのが、1962年型のリンカーン・コンチネンタルだ。危険な運転によって凶器となる姿は、自動車が生の機械として暴力性を帯びていた時代を体現している。現在では先進安全装備が普及し、ぶつかりそうになると衝突被害軽減ブレーキがかかる。自動車は奇怪な欲望の対象ではなくなり、このような映画が作られることは二度とない。

■高橋ヨシキ(映画評論家/デザイナー)
薄皮一枚で包まれた人体に与えられた鋼鉄の皮膜、としての自動車が猛スピードで衝突するとき、テクノロジーとエクスタシーが忌まわしい接合を果たし、肉体には人工の卑猥きわまりない開口部が与えられる。機械油と金属片による、産業化されたエウカリスト。不埒きわまりない精神が不埒きわまりない肉体を統べ、工業的な段階に達した肉欲が我々を支配する。なぜなら「次こそはきっと」さらなるエクスタシーがもたらされる……かもしれないからだ。

■田亀源五郎(マンガ家/ゲイ・エロティック・アーティスト)
フェティシズムの可能性は無限大だ。となると、セックスの対象を人間や男女の性別に限定するのは、実はけっこう狭量なのかも知れない。この映画で描かれているのは、そんな究極のフェティシズム。映画という車に同乗することで、自分の価値観も一緒にクラッシュされる。危険な体験ではあるが、生と死の交錯から薫るセックスの甘美さは、確かに私を酔わせてくれた。

■塚本晋也(映画監督)
エロティシズムとフェティシズムの冷たい官能が、美しい映像になって蘇る――。
楽しみです。

■柳下毅一郎(原作「クラッシュ」翻訳/映画評論家)
二〇世紀最大の幻視者バラードが書いた鉄とスピードのポルノグラフィを、精密な手術で大胆に腑分けをする外科医のごときクローネンバーグが受肉させる。『クラッシュ』こそ二〇世紀に屹立するセックスと自動車事故の神話なのである。

■涌井次郎(ビデオマーケット店主)
映画を貫く金属のように冷たいクローネンバーグの視線はここに登場する特殊な性癖を持った連中の理解者であるふりなどせず、あくまで観察者の立場を印象付ける。振り返れば、デビュー前の実験映画時代から、一貫してクールな距離感を保ちつつ対象を観察してきたのがクローネンバーグだった。撮影ピーター・サシツキーが優れた目となり、音楽ハワード・ショアが稀なる耳となってクローネンバーグをサポートし、衝撃の観察結果報告『クラッシュ』が誕生した。

クラッシュ 4K無修正版
2021年1月29日(金)よりシネマート新宿ほか全国順次公開
配給:アンプラグド
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