今週、米国の主要な株価指数であるS&P500は再び最高値を更新しました。けん引役はハイテク株です。ハイテク株の比率が高いナスダック総合は25日まで5日続伸し、4日連続で過去最高値を更新しました。
株式市場が絶好調な理由
1月27日に2020年10~12月期決算を発表する予定のテスラとアップルは、ともに上場来高値を更新しています。フェイスブック、アマゾンなどの主力ハイテク株も買われています。
日経平均は2万9,000円台目前で少し足踏みしていますが、日本の株式市場でも、やはりハイテク株が買われています。東京エレクトロンのような半導体製造装置メーカーや日本電産などの電子部品株など、そして昨年来のトップパフォーマーであるエムスリーも高値圏にあります。
マーケットでは一時「バリュー株かグロース株か」という議論がありましたが、最近に限ってはグロース株が再び勢いを増しているように見えます。背景にあるのは米国長期金利の上昇一服でしょう。
年明けすぐのジョージア州議会選挙で「トリプルブルー」が復活すると、バイデン民主党政権の財政拡大の思惑から長期金利が急上昇、一時は1.14%まで上昇しました。
財政出動が米景気回復を後押しし、米連邦準備制度理事会(FRB)による量的金融緩和の拡充の必要性が低下したとの見方も長期金利上昇に拍車をかけました。
金利上昇によりグロース株の上値は抑えられていましたが、その後、共和党議員の反対もあって財政出動の追加策がすぐにはまとまらない見通しが台頭しました。また、新型コロナウイルスの感染がそう簡単には抑制できないとの観測などから債券が買われ、金利上昇も一服となりました。
最近、ハイテク株に代表されるグロース株の勢いが増しているのは、こうしたことによるものでしょう。
現在の株高持続の条件は、金利の低位安定です。現在の相場を根底から支えているのは、中央銀行による未曽有の金融緩和によって創り出された過剰流動性であるのは衆目の一致するところです。
よって、目下のところ絶好調と言える株式相場に変調が訪れるとすれば、それは現在の金融緩和が終わる時でしょう。
金融緩和の縮小でショックは起きるのか
市場の一部では、経済対策やワクチンの普及などで景気回復が強まれば、量的緩和縮小を検討する時期が早まるとの思惑が根強く残っています。金融緩和終了の前に、市場がその予兆を察知するか、もしくはFED(連邦準備制度)と市場のミスコミュニケーションがあれば、大きな波乱となるリスクがあるでしょう。
2013年に起きた「バーナンキショック」または「テーパータントラム」の再来を危惧する声はとても多くあります。
しかし、筆者はその可能性は高くないと考えます。テーパータントラムが起きた2013年の状況とは異なる、というのがその理由です。
当時のバーナンキFRB議長がテーパリング(量的緩和策として中央銀行による金融資産の買い入れ額を縮小すること)の可能性に言及した2013年5月は、前年9月に開始された量的緩和策第3弾(QE 3)の最中でした。
QE3は2013年12月に縮小が決定、2014年10 月末に終了しましたが、バーナンキショックの時点ではFEDは月850億ドル規模の買い入れを着々と進め、市場もそれにどっぷり頼り切っていたのです。
ところが現在はFEDの資産購入のペースはすでに落ちています。FEDのバランスシートはコロナ対応で昨年の春から夏にかけてわずか3ヶ月で4.3兆ドルから7.1兆ドルに急拡大しましたが、その後はいったん減少に転じるなどして、いまは微増であり、少なくとも拡大ペースは完全に鈍化した状態です。
もちろん資産購入額自体は大きいのですが、資産全体からすると比率はわずかでバランスシート拡大へ寄与していません。ペースが落ちた2020年6~12月までの資産の増加率は月平均0.5%で、これは2014年からテーパリングが開始されて終了する期間の増加率を下回るくらいです。
テーパリングというのは買い入れ額の縮小であって、バランスシートの規模自体を縮小するわけではありません。2013年当時はバランスシート拡大ペースを鈍化させることに市場はタントラム(癇癪)を起こしたのですが、今は十分に資産購入ペースを減らしているのに、市場はまったく平気です。バランスシートの規模自体を縮小するというのであれば話は別ですが、それはまだ先のことでしょう。
そして、もうひとつ、テーパータンドラムは実現しないと思う理由があります。
いま、 市場関係者に訊けば、100人中100人が、それをリスクと指摘しています。細部に違いはあれ、大方は「コロナピークアウトの兆し⇒景気回復期待の高まり⇒市場が金融緩和の終了を意識⇒長期金利上昇」というリスクシナリオを描いています。
しかし、100人が100人ともリスクと指摘するようなことは起こらないのが相場の常です。これは筆者が30年以上に及ぶマーケットの経験から得た知見のひとつです。
<文:チーフ・ストラテジスト 広木隆>