感染「公表か非公表か」 事業者、迫られる判断 佐世保の飲食店や施設

公表か非公表か。事業者はギリギリの決断を迫られる(本文とは関係ありません)

 店や施設で新型コロナウイルスの感染者が出た場合、その事実を公表するか否か-。事業者は難しい判断を迫られる。長崎県佐世保市内の飲食店は「誹謗(ひぼう)中傷が怖い」と非公表を選択した。一方、同市の介護施設は感染拡大のリスクを減らすためホームページ上で公表した。どちらもギリギリの決断だった。
 1月中旬。昼時にもかかわらず、その飲食店は閑古鳥が鳴いていた。「客数は以前の3分の1ほどです」。店主の男性は深いため息をついた。昨年12月、会食客によるクラスター(感染者集団)が発生。もともと感染拡大とそれに伴う外出自粛で客足が遠のいていた。そこにクラスターが追い打ちを掛けた。
 会食当日。「落ち着いて利用したい」。客の要望で個室を案内した。店にとっても久しぶりの宴会だった。県内でも感染者が徐々に増え、「いつどこで感染者が出ても不思議ではない」と感じてはいたが、それでもやりきれない思いは拭えない。「なぜ、うちの店なんだ」
 「公表されますか」
 保健所の職員にそう聞かれて迷った。感染者が出た店としてうわさされれば、店は立ちゆかなくなる。ネットで市外や県外にまで情報が拡散されるかもしれない。当日はクラスターが起きた団体客の他に利用客はいなかったこともあり、「公表しない」と決めた。
 それでも、「自分も同じ週に利用したが大丈夫か」といった電話が数件寄せられた。いっそ「クラスターは起きましたが店内は消毒済みです。感染対策もしています」と店に貼り紙をしようかとさえ思った。
 発生からしばらくたったころ。感染した会食客が「寒かったので窓を閉めてしまった」「迷惑を掛けました」と謝罪に訪れた。店主も「複数の個室を開放してつなげ、客席の間隔を空ければよかった」と悔やむ。誰が悪いわけでもないのにそれぞれが負い目を感じていた。「もし公表していたらどれほど影響が出ていたか。店名を公表することは死に近いと思う」。男性は今もそう考えている。

 昨年9月30日午後。佐世保市相浦町の特別養護老人ホーム「あいのうら」に保健所から電話があった。職員1人が新型コロナに感染したとの内容。東房翼施設長の脳裏に「なぜ」の2文字がよぎったが、動揺する暇もなく、施設内の消毒や検査対象者の洗い出し、利用者家族への連絡などに追われた。
 介護施設の場合、利用が複数の施設にまたがっていることもある。その場合、公表して注意喚起しなければ他の施設にも影響が広がってしまう。「お年寄りの安全・安心には変えられない」。東房施設長は、公式ホームページでの公表に踏み切った。
 「運営体制はどうなっているんだ」。厳しい指摘もあったが、「大変ですがまた連絡ください」と状況を案じてくれる人がほとんどだった。幸い施設内で感染は広がらず、二重に救われた思いだった。「公表することは利用者とその家族、そして職員のためにもなる」。東房施設長はその思いを強くした。
 公表か非公表か。感染者が出た事業者の多くが難しい問いを突き付けられる。


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