“春一番”は株式市場にどんな風を吹かせるのか

2月3日の立春を過ぎると、暖かい日も少しづつ増えて来ます。まだ北風で寒い日もありますが、関東地方では近日中に“春一番”が吹くとの天気予報も聞かれています。毎年、春一番が吹くと、本格的な春の訪れが感じられるようになります。

気候と株価の間に強い結びつきがあることはご存じでしょうか。近年、注目されている「行動経済学」がそのゆえんです。2017年にシカゴ大学の行動経済学の権威、リチャード・セイラー教授がノーベル経済学賞を受賞したことで、さらに大きな注目を浴びています。

平たく言うと、人間の行動はその時の気分に左右されます。ですので、株式を買ったりする投資も気分の影響を受けてしまうということです。

以前の連載「梅雨の雨量と株価の間に存在した“かなり繊細な関係”」で紹介しましたが、「晴れの日の株価は高く、曇りの日の株価は安い」という実証結果が日本ファイナンス学会で発表されました。“天気が良い時は、人々の気持ちが前向きになるため、楽天的な姿勢で投資しがちになり、買い先行になる”ことが理由とされています。

では、“春一番”と株価の関係にはどのようなものがあるのでしょうか。


“春一番”は投資家の心を明るくする?

この冬は年末から1月の中旬にかけて、度々の寒波で日本海側を中心に記録的な大雪となりました。交通障害による被害が大きな問題になったことは皆さんの記憶に新しいことでしょう。春一番が吹けば厳しい寒さも終わりに近づきます。春の訪れを感じられれば、皆さんの気持ちも明るくなるのではないでしょうか。

であれば、春一番の日は投資家の気持ちが前向きとなり行動経済学の観点で株高が期待されます。そこで実際に調べて見ました。

気象庁のウエブサイトから、1951年から毎年の関東地方で春一番が吹いた日が分かります。当日の日経平均株価の騰落率を昨年まで平均してみました。

結果は意外でした。春一番の日は▲0.03%の株安傾向です。

春一番は気象庁が決めて発表するものですが「風速が毎秒8メートル以上の風」が必要です。イメージでは、風に向かって自転車がこぎづらくなったり、砂ぼこりが立ち始めるほどの風です。目にゴミが入ったり、髪も乱れたりして気持ちもイライラするくらいになるため、ストレスを感じる人も少なくないでしょう。こうした心理的なマイナスが株安に影響しているのかもしれません。

更に、翌日を見ると株価は上昇する傾向でした(+0.12%)。1日経って強風もおさまり、人々も落ち着いて、前向きに春の訪れを意識できるからかもしれません。

“春一番”の時期と株価の関係は?

春一番と株価の間にはもう1つ重要な関係があります。それは例年に比べて、春一番が早かったり、遅かったりすると、春の季節中(3~5月)が株高になりやすいという傾向です。

結果から紹介しましょう。

過去、“春一番”が2月15日までの早い時期に吹いた年の、3~5月の日経平均株価は、平均して4.06%と上昇しました。

これは早い春の訪れで、投資家の気持ちが前向きになり易いという行動経済学の観点が理由にあるでしょう。それに実態経済の点からも説明できます。春物の消費が早めに始まり、これが景気をけん引して株高につながるということです。

例えば、衣料品業界。春物の販売は主に2月から3月の初めにかけてですから、春の訪れとともに人々の購入意欲が早めにスタートすることにつながるでしょう。また、暖かい日が増えてくると、外に出かけたくなる人も増えてきます。そうなれば、外食や買い物など消費も活発になります。

一方で、3月3日のひな祭りの後に春一番が吹く遅い年の春も、結果をみると+4.05%の株高でした。今回検証した騰落率の集計期間は3月から5月までです。長い冬が終わり、3月ようやく訪れた春一番に、人々の気持ちが大きく前向きになったことが理由かもしれません。

ちょっと複雑な関係にはなりますが、整理してみましょう。結論は、春一番は2月15日までに吹くか、そうでなければ、3月3日のひな祭り後に吹いた方が株式市場にポジティブな傾向となります。

10都府県では3月7日まで緊急事態宣言が延長されました。新型コロナ関連ではストレスになるニュースも多いですが、春の訪れで前向きな気持ちを期待したいところです。

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