不動産の価格交渉を有利に進める「とっておきのカード」とは

不動産投資には価格交渉がつきものです。物件を買う際、壮絶な値切りの駆け引きが行われることもあるようです。不動産投資家の束田光陽さんも、数々の価格交渉を経験してきた人物。過去2回にわたり、実際にあった物件Aの価格交渉エピソードを聞いてきました。今回の記事は、その完結編です。


物件Aの価格交渉もいよいよ大詰め。その結果は?

――全3記事にわたる価格交渉エピソードも、今回が最終回となります。事の発端は、580万円で売り出されていた関東近郊の“物件A”を束田さんが見つけたことでしたね。そして業者さんに500万円での購入を希望。やり取りの末、「510万円なら売ってもいい」と折衷案を提示されました。しかし束田さんはそれを断った。これが前回までのあらすじです。

はい。70万円値引きしてもらったのですが、私は買いませんでした。前回も話したように、不動産の価格交渉は譲歩しないのが理想です。一度500万円を希望したら、その金額以外では購入しないという意思を見せる。業者さんにも「500万円にならないならやめましょう。他の希望者に譲ってあげてください」と伝えました。

――完全に“あきらめ”の口調ですね。そう言われると「この人は500万円じゃないと買わないな」と思います。

業者さんも、おそらくそう感じたのではないでしょうか(笑)。ただ、交渉はこれで終わりませんでした。しばらく経って再度電話がきたんです。

――電話の内容はどんなものですか?

業者さんから「わかりました、500万円で売りましょう」と言われました。希望価格が通ったんですね。そうして購入に至ったんです。

――希望通りの価格まで値切れたということですか? 業者さんもなぜOKしたのでしょうか。

実は今回のやりとりにおいて、私は交渉を有利に進めるための要素、カードを切っていたんです。それがあったから、業者さんは値切りに応じてくれた。今回の価格交渉では、このカードの存在が大きなポイントでした。

日頃の態度や振る舞いが未来の価格交渉に影響する

――交渉を有利に進めるカード……。どういうことですか?

すぐに答えるのも面白くないので、ヒントを言いましょう。最後の電話がきたとき、業者さんはこう言いました。「束田さんはリピーターなので、500万円でOKです」と。実はこれが、私のカードが効いていた証拠なんです。

――分かるような、分からないような。素直に正解を教えてください(笑)

簡単に言えば、業者さんからの信頼です。それは今までの購入実績で培ったものです。私はその業者さんと既に取引をしていて、ローンを使わず現金で物件を購入していた。これは前回も話しましたね。業者さんにとって、現金で買ってもらえるのはメリットなんです。ローンは審査に時間がかかりますし、仮に審査に落ちれば商談も立ち消えますから。

もうひとつ、私は購入した物件についてほとんどクレームや文句を言わずにきました。自分で言うのもなんですが、業者さんにとって優良顧客なんです。文句も言わず手もかからない、現況(物件のそのままの状態)を受け入れ、現金で支払ってくれるのですから。

――束田さんが優良顧客であることが、価格交渉を有利に進めたという意味ですかね?

はい。業者さんが私を「優良顧客」と見ている確信があるわけです。すると、当然こちらは強気に価格交渉できますよね。取引のない客に売って後日揉める可能性があるなら、多少安くても現金でサクッと馴染みの客に買ってもらう方がリスクは低い。そう考えるのが自然です。

――確かに。それをふまえての500万円という希望価格だったのですか?

ですね。トランプでいえば、私は非常に強いカードを最初から持っていたんですね。これが初めてやり取りする業者さんだったら違ったかもしれません。それよりも大切なのは、普段の物件購入や業者さんへの態度が、次の価格交渉に影響してくるということです。

――なるほど。日頃の行いが大切……ということですかね。

日頃の態度が影響しますし、むしろそれを見越して、普段から業者さんにクレームを言わず、現金でサクッと購入している面もありますよね。業者さんとのやりとり1つ1つが、未来の価格交渉に効くのです。これも大きなポイントでしょう

――そういうことですね。不動産に限らず、いろいろな場面の価格交渉に通じそうなお話でした。ありがとうございました!

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