【新型コロナ】誰にも頼れない独居療養 苦難の連続 横浜の女性の闘病体験

県が無症状・軽症者に配布している「自宅・宿泊療養のしおり」。女性は日々の体温、酸素飽和度などを書き留めた

 新型コロナウイルス感染拡大で自宅療養者の容体急変が相次ぐ中、横浜市の自宅で症状悪化の脅威に直面した50代のパート女性が闘病体験を明かした。誰にも頼ることができない独居療養。処方された解熱剤でウイルスの潜伏期間をしのぎ、立ち上がることさえ困難な病状でも治療を受けられなかった。今も後遺症に苦しみながら、「独居者のサポートを」と訴える。

 療養終了から1週間が過ぎた1月下旬。神奈川県の外出許可が下りた後も、長引く体調の異変に悩まされている。「今までの自分じゃない。いつまでたっても完治しない」。調味料の香りが以前よりも薄く感じる。息切れや微熱がつきまとい、ペンを握れば字が乱れる。近日中に新型コロナ「後遺症」の専門外来に足を運ぶつもりだ。

 発症は年明けの8日夜。体のだるさはやがて悪寒に変わった。体温は39度近くあり、翌日も状態は芳しくない。「もしかして…」。不安は的中し、クリニックのPCR検査で陽性と判明した。

 振り返れば検査から苦難の連続だった。

 クリニックを訪れると、職員に「風邪の症状がある方は外でお待ちください」と促され、真冬の風に身を震わせた。唾液採取もスムーズにいかず、レモンと梅干しの写真を示されたが、喉が渇いて出ない。薬局も薬の受け渡しから会計まで全て屋外。寒空の下に1時間半近く立たされた。

 検査結果の判明は3日後。自宅に食料がなく、クリニックからの帰宅途中に駅前のパン屋に駆け込んだ。他人に感染させるリスクもよぎったが、「生きるため」にマスクを二重にして手早く買い物を済ませた。12日、県の看護師が疲弊した声で伝えてきた。「保健所への報告はご自身でお願いします」

 14日夕、激しい頭痛に襲われた。血中酸素飽和度を示すパルスオキシメーターの数値は94%。県が重点観察の対象とする数値まで1%に迫った。「苦しくなったら119番を」。保健所やクリニックの助言を思い起こして電話をかけたが、病床逼迫(ひっぱく)の波に押し出された。

 救急車に気付いた近所の住人から視線を浴びたが、生きるか死ぬかの瀬戸際。救急隊員が電話で受け入れ先を探して5軒目。「きっと入院を断られますがいいですか」。前置きされたがうなずくしかなかった。

 市内の病院に搬送されると、医療従事者の女性が胸に聴診器を当てて淡々と言った。「入院の必要はないです。30分後に迎えが来ますから」。容体急変の不安が頭をよぎった。何かがあっても、頼る人がいない独居療養だけは避けたかった。「CT検査だけでも…」と懇願したが、「どうせ肺炎ですから、もういいでしょう」。クリニックの処方と同じ解熱剤を手渡された。狭い個室に椅子を並べて横たわり、ぼうぜんと搬送車を待った。

 その後、快方に向かったが「ただ運が良かっただけ」と受け止めている。重点的な看護が必要な「ハイリスク者」について、県は「入院待機者」「酸素飽和度93%以下」などと線引きするが、女性は訴える。「独居者を積極的に受け入れるなど、状況に応じて対応してほしい」

© 株式会社神奈川新聞社