「釈明用語」は尽きた

 聞くたびに首をかしげる釈明を以前の本欄でいくつか並べたことがある。その一つが、言動を批判された人が言う「皆さんの誤解を招いた」。私ではなく、皆さんが誤って理解し、取り違えてしまった。そんな含みがある▲多人数で会食した菅義偉首相は「国民の誤解を招くという意味では反省している」と弁明した。「会食するなら少人数で」という政府の呼び掛けに反している、と批判した国民はさて、何かを誤解したのだろうか▲近頃は「発言を撤回する」というのも、便利な“釈明用語”に思える。女性蔑視発言の森喜朗氏は「深く反省している」と発言を取り消したが、何をどう反省したのか、なぜ撤回したのか今も分からない▲「撤回したからいいのでは」と、自民党の二階俊博幹事長はかばった。東京五輪・パラリンピックのボランティアの辞退続出にも「辞めたいなら新たに募集を」と言い、辞退は今だけの「瞬間的」なことだと、にべもない▲火消しを急いだ発言が、火に油を注いでいる。辞退する人たちが何に怒り、失望しているのか、思いを致す様子はない▲菅氏、森氏、二階氏。巨大組織ににらみを利かせる人物は、粗雑で心ない弁明をして、自ら批判の炎を広げた点でもよく似ている。釈明用語としての「反省」も「撤回」も国民にはもう通じない。(徹)


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