風化防止「新たな形」模索 東日本大震災から10年

東日本大震災発生から10年に合わせ、応援メッセージ動画の準備を進める「南郷町もえる商忘団」のメンバー=日南市南郷町

 東日本大震災から3月11日で10年の節目を迎える。新型コロナウイルス感染拡大の影響で、県内では本年度、震災後に重要性が見直された防災訓練の多くが中止を余儀なくされ、追悼イベントの開催も危ぶまれている。記憶の風化が懸念される中、被災した宮城県気仙沼市とカツオ一本釣り漁で縁の深い日南市南郷町の市民団体や、子どもたちへの防災教育に取り組む学生グループが、激励メッセージの動画配信や、防災関連の啓発DVD製作の準備を進めている。
 県内では本年度、22市町村が津波や土砂災害などに備えた住民参加型の訓練を予定していたが、実施したのは4市町村。自治会や学校、企業を対象にした職員による出前講座は、宮崎市が2019年度の144件から50件、日向市は19年度の69件から26件に減少した。
 日向市防災推進課の担当者は「コロナ禍でも災害は起きる可能性があるので感染対策を取った上で実施したいが、相手側から『中止する』と言われると無理はできない」と明かす。
 宮崎市の平和台公園などで例年開かれていた追悼行事も未定。こうした中、一部の民間団体は新たな形で節目の年と向き合う。
 日南市南郷町の市民団体「南郷町もえる商忘団」は、12年から続けている追悼行事の中止を昨年に続き決定。一方で「記憶の風化を防ぎたい」と、園児や小中学生の被災地への応援メッセージ動画を3月11日からネットで公開する準備を進めている。
 団長の竹本政憲さん(71)は「風化は防災意識の低下につながる。取り組みを通して被災地を元気付けると同時に、住民が改めて地域の災害リスクを認識する機会にしたい」と語る。
 県内の大学生でつくり、防災学習と子ども食堂を合わせた「防災子ども食堂」に取り組む「県わけもん防災ネットワーク」は、3月11日に向けて企業などから寄付を募り、震災被害の解説や防災クイズを収録したDVDを作製。非常持ち出し袋と合わせ児童養護、障害者施設に贈る予定だ。
 同ネットワーク代表の白石麻緒さん(22)=宮崎大4年=は「宮崎では南海トラフ巨大地震などが懸念されており、東日本大震災後に生まれた世代への啓発は重要。直接会えないのは残念だが、防災の大切さを伝えたい」と話している。

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