森喜朗氏→川淵三郎氏まさかの「老々交代」 後任に若い世代を選べなかったリアルな内幕

森喜朗氏(左)と川淵三郎氏

まさかの〝老々交代〟だ。東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長(83)が女性蔑視発言の責任を取り、ついに辞任を決意。元日本サッカー協会会長の川淵三郎氏(84)が新会長就任を受諾した。辞任を迫られた83歳のトップが、84歳の後任を指名するという〝密室高齢バトンタッチ〟に、ネット上を中心に森氏の「院政」を指摘する声も上がっている。若い世代に引き継げないトップ交代の裏事情とは――。

川淵氏は11日に森会長と会談し、後任の打診を受諾。「森さんも相当落ち込んでいる。『自分は辞めて新しい人に代わってもらって、この国民的行事をなんとか成功させたい。それなら川淵さんしかいない』と。ある程度断るつもりだったが、外堀が埋まっていて断るような状況ではなくて、ぜひ引き受けますと」と就任理由を明かした。関係者から森会長が涙を流していたことを知らされ「僕も、もらい泣きしちゃって。本当につらかっただろうなと涙が止まらなかった」と男泣きしたという。

森会長の辞任、そして川淵氏への後任就任要請について、ある大会組織委員会幹部は「もともと森さんは辞めたかった。それなのに12日の会合(評議員会と理事会の合同懇談会)で自分が〝まな板の上の鯉〟のようになって『お辞めになったほうが良い』などと議論されることは、プライドが許さなかったと思う。それならば辞任して、先に後任の道筋も付け、自分が信頼のできる川淵さんに託したかったということでしょう」と打ち明ける。

川淵氏と森氏は早大の先輩後輩。長くスポーツ界に貢献し、東京五輪についても細かな話し合いをしてきたように気心が知れている。自身がつくり上げてきた東京五輪を、世論に押されて中止に追い込まれることなく、仕上げてくれる人物というわけだ。

そもそも「余人をもって代えがたい」とまで言われた東京五輪組織委員会の会長職は、元首相経験者クラスしか務まらないと言われていた。世界各国の要人や国際オリンピック委員会(IOC)、東京都や日本政府と対等に話ができなければならないからだ。

しかし、新型コロナウイルスの感染拡大に加え、森会長の失言オンパレードで国内外から冷たい視線を受ける状況。森会長の後任として、安倍晋三氏(66)ら首相経験者に内々に打診がいったという話もあるが「この先、誰がやっても批判をされる。良くやって当たり前。悪かったら今以上に叩かれる。こんな損な役回りを引き受ける人は政治家にはいない」(競技団体幹部)と受け手はなし。イメージアップのため、女性や若い世代をトップに据えることも効果的なはずだった。しかし関係各所との調整、交渉など着実に実務をこなしてきた森会長の代わりになる人物はいない。

特に、若い世代については慎重にならざるを得ない側面があった。「今回、この難局を任せて何か起きたら、次の日本のスポーツ界を担う人材たちを潰すことにもなりかねない」(同)。沈みかけた船の舵を取るのは非常に難しい。もはや〝汚れ仕事〟、もしくは〝敗戦処理〟と言っていいほど、未来ある若いリーダーをダメにしかねない、本当に損な役回りなのだ。「川淵さんは大変な役を引き受けた」と関係者が口を揃えるのも無理はない。

一方でトップが変わっても、組織委に対する逆風は収まりそうもない。川淵氏は報道陣の取材に、批判を受けて辞任する森会長から会長職を直接バトンタッチされたうえ「森氏に相談役になっていただきたい」と明かしてしまった…。

SNS上では「辞任する人が後任を指名するのはおかしい」「何も変わらないのではないか」「院政を敷くのか」と批判が相次いだ。たとえ名誉職につかないとしても、森会長の意向が強く影響することは確実。一件落着とはとても言い難く、東京五輪開催が風前のともしびにあることに変わりはなさそうだ。

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