一翔戦は実現目前だった!? 井上尚弥が〝メリットのない〟比嘉大吾と戦ったワケ

エキシビジョン後、比嘉(左)と健闘を称え合う井上

ボクシングの新型コロナウイルスのチャリティーイベント「LEGEND」(11日、東京・代々木第一体育館)で、WBAスーパー&IBF世界バンタム級統一王者の井上尚弥(27=大橋)は元WBC世界フライ級王者の比嘉大吾(25=Ambition)を圧倒した。だが〝モンスター〟はなぜ「メリットのない」相手と戦ったのか。また、観客数はなぜ2548人にとどまったのか。2つの「なぜ」の理由とは――。

「このスパーリング(エキシビションマッチ)は自分にメリットはない。レベルの差を見せないといけない。互角の戦いじゃ、自分の評価を高めることはできない」。

15連続KO勝利の日本タイ記録を持つ比嘉との戦いを井上は、こう表現した。この日は採点もなく、勝ち負けのつかない3ラウンドのエキシビションマッチだったが、鮮やかなコンビネーションで、言葉通りに実力の差を見せつけた。

比嘉には「(試合で対戦するのは)厳しい状態」と言わせ、自身も「以前にスパーリングした時よりお互い成長してるけど、その差は開いてないといけないから」と言った。なぜ、そこまで「格」の違う相手とやることになったのか。

先月21日にイベントが開催されることが発表された際、主催者はSNSで「井上が誰と対戦してほしいか」を募り、そこで多くが名前を挙げたのがWBO世界スーパーフライ級王者の井岡一翔(31=Ambition)だった。

4階級王者とのファン垂涎のカード実現に向けて主催者は動こうとしたが、一翔は大みそかの試合でタトゥーが露出したことで先月22日に日本ボクシングコミッションから「厳重注意」されている。出場停止などは伴っていないが「処分から1か月経たないうちにリングに上がるのは…となって」(主催者)と断念。比嘉が相手となった。

それでも他に元WBA世界スーパーフェザー級スーパー王者の内山高志氏(41)や元3階級王者の八重樫東氏(37)。現WBA世界ライトフライ級スーパー王者の京口紘人(27=ワタナベ)が参戦するとあって、主催者側は緊急事態宣言下の上限5000人の観客が集まることを想定していた。

実際は約半分。これについて主催者は「若い人たちがPCR検査を受けることに難色を示していたようです」と説明。このイベントでは観客や選手、関係者の全員にPCR検査を実施したが、ここで万が一にも「陽性判定」されることを嫌がった人が想像以上に多かった。

また「陽性」の場合でも民間検査なので、入院治療などの公的な支援を受けるには改めて保健所か病院で検査を受ける必要がある。主催者側は「PCRで陰性となって、安全&安心して参加できるイベント」を売りにしていたが、反応は逆だった。

結果的に会場は空席が目立ったが、井上は「久々にお客さんの前でやる感覚がつかめた」と一昨年11月のノニト・ドネア(38=フィリピン)戦以来となる有観客でのリングに上がった収穫を語る。

次戦はIBF1位のマイケル・ダスマリナス(28=フィリピン)との指名試合が濃厚。これに向けて、日本の至宝に少しでもプラスになったのなら何よりだ。

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