薬局のお守り

 「医療従事者」と聞けば、まず頭に浮かぶのは医師や看護師だろう。ただ、持病がある人や高齢の人にとっては薬剤師の存在も欠かせない。あまり知られていないが、コロナ禍で身近な「まちの薬屋さん」も厳しい状況に置かれている▲長崎市内などで薬局を営む薬剤師の男性(55)が打ち明けてくれた。薬局には、具合が悪くなって処方箋を持たないままふらっと薬を求める人もいて、感染の危険も感じるという。逆に、在宅の患者を訪ねる際は「うつしてしまわないか」と神経を擦り減らす▲受診控えが広がっているので、経営的にも苦しい。いつもなら冬場は“繁忙期”なのに、患者数は3割以上も減。経営する薬局の一つは毎月100万円ほどの赤字という▲なんとか踏ん張っているのは、医療に携わる一人として、患者に寄り添おうとしているからだろう▲彼は最近、訪れた人に小さな紙を配り始めた。「心配なこと不安なことたくさんあると思います。夜中でもかまいませんよ。気にせずご連絡ください」。ひと言とともに、自分の携帯電話の番号を添えた▲電話は毎日のようにかかってくる。薬の説明をあらためて求められたり、感染の状況がこれからどうなると思うか尋ねられたり…。メモ紙は、先行きの見えない不安を和らげる“お守り”になっている。(明)


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