【藤田太陽連載コラム】同じ虎のドラ1だから言える今の藤浪に必要な環境

藤浪が復活するために必要なものとは…

【藤田太陽「ライジング・サン」(23)】練習でできることが一軍のマウンドで発揮できない。自然体で振れていた腕が思うように動かない。右ヒジの手術から復帰した僕は誰にも言えず悩んでいた時期がありました。

そういう経験を乗り越え2009年途中から移籍した西武では、メンタルトレーナーの助けもあり自分の投球を確立できました。阪神のドラフト1位という色眼鏡で見られる。その中で結果を求められプレーする難しさを知る人間として、ここ数年の藤浪について少し書かせていただきます。あくまで個人の意見です。

藤浪の長所は圧倒的なボールの力と荒れ球です。その荒れ球がいいのに、それをメディアも「また死球」と潰しにいく。僕は「だったらよければいいじゃないか。その代わりアウトコースは打てないけどね」と、それぐらいの感覚で投げればいいと思っています。

それがプロの試合でしょ。メジャーの試合を見ていても、それぐらいのこと何てことないでしょ? でも、藤浪もそれすら分かっていると思うんです。162キロの直球ですよ。あんなにすごい球を投げてるんですよ。

ちゃんと投げようとしない方がちゃんと投げられるんです。アバウトで。こればっかりは本人自身のハートの問題。彼ほどの選手なら個人でメンタルトレーナーもつけていると思いますしね。もう、移籍してチームを変えてしまうか、それこそいきなり海外に行ってしまってもいいかもしれないですよ。

阪神タイガースという今の環境で、彼がいろんなことを意図的に遮断して投げようとするのは良くないと思います。かわいそうです。阪神のドラフト1位って、オリンピックのプレッシャーとまでは言えないけど想像つかないと思います。

公開処刑、尋問を受けているようなイメージですかね。何か悪い部分をちょっと出したらつつかれる状態。フォームを試行錯誤していると「迷走モード」と陰口をささやかれる。そんなの気にしないと声にしたり、意識した時点で、気にしてしまっている証拠ですしね。

チームも会社もこの選手を育てようと本当に思ったら、徹底しないといけない。日本ハムなんてそういうイメージがありますね。ダルビッシュ有、大谷翔平がいい方の例ということになります。

人間として本当に阪神の注目選手としてのあり方を教えられる人材が必要です。ただ、引退したOBがいればいいというわけではない…。若者の未来を担うわけです。本当に大事だなと思います。ただ、残っていく結果に関しては誰のせいでもなく、自分の責任なんです。僕の場合でいえば阪神時代の僕には力がなかっただけなんです。ただ、今振り返れば何か違うアクションがあれば変わったかもしれないという思いもあります。だから今は、大切な若者を預かる指導者として、そういうきっかけを与えられるコーチになりたいなと思っています。

メンタルでいえば西武・松坂大輔のように、天性のハートと技術を兼ね備えた投手はうらやましいですね。今でも現役を続けるメッセージ性というか、何度も手術を受けてまで頑張る姿もすごい。他人がとやかく言える余地のない自分でつかんだ立ち位置だと思います。何を言われてもユニホームを着続けるハートの強さ。ただただ、うらやましいですね。

☆ふじた・たいよう 1979年11月1日、秋田県秋田市出身。秋田県立新屋高から川崎製鉄千葉を経て2000年ドラフト1位(逆指名)で阪神に入団。即戦力として期待を集めたが、右ヒジの故障に悩むなど在籍8年間で5勝。09年途中に西武にトレード移籍。10年には48試合で6勝3敗19ホールドと開花した。13年にヤクルトに移籍し同年限りで現役引退。20年12月8日付で社会人・ロキテクノ富山の監督に就任した。通算156試合、13勝14敗4セーブ、防御率4.07。

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