街中で日米の国歌が放送 なぜ?どこから? 「基地の街」ならではの事情

米海軍佐世保基地司令部前に掲げられた国旗。掲揚時に両国国歌が流れた=昨年12月20日午前8時10分、佐世保市内

 毎朝8時になると、佐世保の街ではどこからともなく米国国歌と君が代が聞こえてくる。ある日、読者の男性から「何のために放送しているのか」と長崎新聞佐世保支社に疑問の声が寄せられた。「確かに…」。記者も毎日耳にしているのに、いつの間にか日常化していた。取材を進めると「基地の街」ならではの事情が浮かんできた。
 時計の針が午前8時を指した。米海軍佐世保基地のメインベースから約1キロ以内の場所で記者が待機していると、米国国歌「星条旗」、続けて日本国歌「君が代」が流れた。別の日に、少し離れた弓張岳展望台付近で試しても、しっかりと両国歌は聞こえた。
 毎朝、日米の国歌を流す理由を同基地に尋ねた。担当者によると、基地では司令部前で米海軍隊員が星条旗を、日本人警備員が日の丸をそれぞれ掲揚。それに合わせメインベースや米軍針尾住宅地区で放送しており「長く続く軍の伝統儀式」と説明した。
 両国歌が流れている間は▽制服を着た軍人は敬礼をし、民間人は気を付けの姿勢で立つ▽基地のゲートでは、車の通行を一時的に止める▽基地内で車はその場で停止-などのルールがあるのだという。日没時には国旗を降ろす際にラッパ音が鳴らされる。
 在日米海軍司令部(神奈川県横須賀市)によると、横須賀基地や厚木航空施設など日本にある全ての米海軍基地・施設で、国旗掲揚のために日米の国歌を流していることも分かった。
 「音量が大きい」「どこから流れているのか」。昨年8~11月、佐世保市基地政策局にはこうした市民からの問い合わせが十数件寄せられた。国歌自体は以前から放送しているはずなのに、なぜ急に増えたのか。
 米海軍基地と同様に、毎朝8時に君が代を放送している海上自衛隊佐世保地方総監部。関係者は「音源が総監部なのか基地なのか、判別できないほど米海軍基地側の音が大きい時期もあった」と明かした。
 取材して回ると、在日米軍基地が昨年夏、放送システムを変更していた事実に突き当たった。主に緊急時の警告手段のため、大音量で放送できる機器を備えた「ジャイアントボイス通報システム」に更新。それまで聞こえなかった地域に音が届くようになったのはこれが原因かもしれない。
 現在、基地は音量をセーブしているようだが、同基地関係者によると「年末ごろから、ベースの中で聞こえづらい」といった声も上がっているという。
 地元の人はどう受け止めているのだろう。同市赤崎町の40代女性は、両国歌が聞こえると「朝が来たと思う。自衛隊と米海軍の両方が存在する佐世保ならでは」としみじみと語った。

© 株式会社長崎新聞社