田原俊彦「ハッとして!Good」から解く、トシちゃんは現在も変わらぬ生涯のプリンス 1980年 9月21日 田原俊彦のセカンドシングル「ハッとして!Good」がリリースされた日

祝・還暦! 現実に存在するプリンス、田原俊彦

“プリンス” というと、どんな人物を思い浮かべるだろうか? ブロンドの髪に白い歯をのぞかせるハンサムボーイだろうか、それとも、困った時に助けに来てくれる白馬に乗った王子様だろうか?

芸能人がかわいそうになるほどテレビの画質がよくなり、SNSでその私生活が簡単に覗けるようになった現代に、実在するプリンスを誰かに見出すことは時代遅れかもしれない。しかし80年代にはそれが存在し得たと思っていて、その形容がもっとも似合うのは田原俊彦だと思っている。

アイドルでありプリンスでもある田原俊彦の60歳の記念にあてて、代表曲である「ハッとして!Good」を取り上げながらコラム、もといラブレターを綴ってみたい。

「ハッとして!Good」の特徴その1・唯一無二のサウンド

「ハッとして!Good(ハッとしてグー)」は1980年に発売された田原俊彦の2枚目のシングル。作詞・作曲はクラシック出身の宮下智、編曲は新進気鋭のアレンジャー・船山基紀によるものだ。

そもそも、私が田原俊彦の楽曲を聴こうと思ったのは新卒一年目、23歳の頃だった。急に見知らぬ土地に配置されたうえ激務だったために友だちを作る暇もなく、勤務前と勤務後に聴ける音楽だけが唯一自分を支えていたように思う。その時によく聴いていたのがこの「ハッとして!Good」だった。

現実では出会えそうもないひと目惚れを歌ったスイートな歌詞とグレン・ミラー・オーケストラ風のサウンドは、ロマンに包まれた夢のような世界を想像させた。懐かしさのある上質なアレンジが地に足をつかせていて、夢物語のような歌詞にほんのちょっとの現実味を帯びさせている。もしかしたらどこかの国のどこかの時代に、こういう世界があるのかもしれない。ちょうど社会人一年目という、自分の至らなさと社会という現実を突きつけられる毎日の中で、その情景は荒んだ心を涙が出るほど癒やしてくれた。

「ハッとして!Good」の特徴その2・田原俊彦のリズム感

そして当然その興味は歌手である田原俊彦にも向けられていく。彼の歌唱の中でもっとも私の心を打った要素はリズム感のよさだ。例えばサビは「♪ ハッ・・として~、グッ・・ときて~、パッ・・と目覚める恋だから」(“・”は休符)と休符が多くリズム感がしっかり求められる。このリズム感がなければこの曲のノリの良さと高揚感は失われてしまうため、歌ってみると以外に難しいことがわかると思う。

実際、田原俊彦はこの当時歌唱力の面で評価されるアイドルではなく音程を外すことも多いが、その一方でどんなに激しい振り付けをしていてもリズム感が崩れることはない。本楽曲もミュージカルを思わせるような動きの多い振り付けだが、むしろ振り付けが加わることで楽曲全体にグルーブ感をもたらし、歌唱もよりリズミカルになっているような気さえする。

トシちゃんはルックスも王子様!

もちろん、長い手足と塩顔系の甘いマスクにもれなく魅了された。「ハッとして!Good」のシングルレコードの裏面には田原俊彦が赤いテレフォンボックスに腕をかけて立っている写真があり、真っ赤なトレーナーを真っ白なパンツにインしてこちらに向けて微笑んでいる。ああ、これはプリンスだ。シャツインと白パンツが似合う人がプリンスでなくて何だというのだろう。さらには自身のサインと「好きだよ…」というコメント付きである。

楽曲内の「君は天使さ」「君だけのプリンスになると決めたのさ」「二人だけの世界へとはばたくよ」という、普通なら歯が浮くような歌詞でさえも、上記のアレンジのもと彼が歌うとまさに白馬に乗った王子様が自分のためだけに歌っているような気がしてしまう。

普通なら少々クスッとなってしまってもおかしくないのかもしれないが、楽曲のクオリティの高さ、そしてその楽曲と田原俊彦の歌唱との調和、そして彼の激しいダンスをものともしない朗々としたパフォーマンスによって、やはり夢が現実のものとなって現れたような錯覚をさせてくれる。まさにアイドル、そしてまさにプリンスだ。

生涯現役・プリンスを貫く田原俊彦

それから40年以上が経ち、田原俊彦は60歳を迎えた。18のときに多くの人を「ハッと」させてくれた田原俊彦は、現在もほぼ毎年シングル発売・コンサート開催など積極的に活動している。

2020年に発表した76枚目のシングル「愛は愛で愛だ」には「生きて生きて生き抜いて 不死身のキズも悪くないだろ」と言う歌詞がある。それは、事務所からの独立やメディアから遠ざかった過去など、表から見えているだけでも決して平坦ではなかったはずの彼の芸能人生をまさに歌っているようだった。

しかし、そんな苦労をトシちゃんは一切ひけらかすことはない。常に音楽に軸足を置いており、ダンスは年々キレに磨きがかかっているほどだが、そんな努力についてあらゆるインタビューで語るのは「それが田原俊彦」のひとこと。プロフェッショナルを貫く一方で、1つ真面目なことを言ったら必ず1つはボケてくれるおちゃらけキャラも健在だ。

そんなトシちゃんワールドが次々と展開される彼のステージを見ていれば、長年愛される理由はまさに明々白々。還暦を迎えてもなお「グッと」させ続けていてくれる彼は、生涯現役のプリンスなのである。

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