4人家族の大黒柱夫、就業不能保険に入る必要はある?

読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。
今回の相談者は、45歳、会社員の男性。専業主婦の妻と子ども2人家族の相談者。自分が働けなくなったときのために、就業不能保険への加入を検討しているというご相談です。FPの鈴木さや子氏がお答えします。

私のみの収入で生計を立てています。就業不能保険をどの程度かけたらよいかわかりません。

【相談者プロフィール】

・男性、45歳、会社員、既婚

・同居家族について:妻41歳・専業主婦、子ども2人(1歳、4歳)

・住居の形態:賃貸

・毎月の世帯の手取り金額:50万円

・年間の世帯の手取りボーナス額:200万円

・毎月の世帯の支出の目安:60万円

【毎月の支出の内訳】

・住居費:13万円

・食費:20万円

・水道光熱費:8万円

・教育費:2万円

・保険料:2万円

・通信費:2万円

・車両費:2万円

・お小遣い:6万円

・その他:5万円

【資産状況】

・毎月の貯蓄額:5万円

・ボーナスからの年間貯蓄額:40万円

・現在の貯蓄総額:2,000万円

・現在の投資総額:1,600万円

・現在の負債総額:0円


鈴木:子育て中の会社員の方からのご相談です。病気やケガをして働けなくなった場合に備えられる「就業不能保険」について、どの程度かけるべきか悩んでいるとのことですね。
主に会社員の方が就業不能保険を検討する際のポイントをお伝えします。

傷病手当金のある会社員にとって就業不能保険の必要性は低い

会社員のご相談者のように、勤務先において健康保険に加入している人にとって、就業不能保険の必要性は、実は高くありません。なぜなら健康保険には、「傷病手当金」という、働けなくなった場合に保障を受けられる制度があるからです。まずは「傷病手当金」を理解してから、ご自身で入る保険を考えていくと良いですね。

傷病手当金とは、次の4つをすべて満たしている場合に、支給を受けられる手当です。

1)業務外の事由による病気やケガの療養のために仕事を休んでいる
業務上の事由で病気やケガをして休んだ場合は、労災保険の給付対象となります。
2)医者など療養担当者の意見などを基に、仕事に就けないことが証明されている
支給申請書には、療養担当者が意見を記入し証明する欄が設けられています。
3)仕事を連続して3日間休んだ後、4日目以降も仕事を休んでいる
当初3日間には、有給休暇や土日・祝日等の公休日も含まれ、給与の支払いの有無も関係ありません。なお、連続した3日間と4日目の間に出勤していても、支給対象となります。
3)休んでいる期間について、給与が支払われていない
給与の支払いがあっても、傷病手当金の額より少ない場合は差額について支給されます。

まとめると、病気やケガの治療(仕事以外の理由)で、医者の指示にしたがい連続3日間会社を休んだ場合に、4日目以降最長1年半の間に休んだ日についてもらえる手当となります。

また、傷病手当金の金額は、給与の約3分の2です。具体的には以下の計算式で算出できます。

傷病手当金の支給日額=過去12カ月間の標準報酬月額の平均額÷30日×2/3

月収からざっくりと試算し、万が一の時に、ご自身が一体いくらくらいの支給を最長1年半受けられるか、知っておくとよいでしょう。

なお傷病手当金のほかに、法令により定められた障害等級表(1級・2級)による障害の状態となった場合、要件を満たしていれば、障害年金(基礎年金・厚生年金)の支給も受けられます(一部、併給調整が発生します)。1年半経過し傷病手当金の支給が止まったあとも障害年金の給付は受けられます。

企業によっては独自の付加給付として、「傷病手当金付加金」といった保障の上乗せが受けられる場合もありますので、健康保険組合に加入している方は確認することをおすすめします。

ご自身の万が一の公的保障を知り、それでも不安な場合、就業不能保険への加入を検討しましょう。昨今は、傷病手当金の支給が終わったあとからの期間を保障するタイプもあり、会社員などはこのタイプの方が向いています。

なお、国民健康保険には傷病手当金のような保障がありません。ですので自営業の方にとって、「働けないリスク」に備えられる就業不能保険は、とても大事な保障と言えるでしょう。

就業不能保険を検討する際の注意点

就業不能保険とは、民間の保険会社が取り扱う「働けなくなった場合に毎月給付金等が受け取れる保険」です。前述の、傷病手当金や障害年金といった公的保障だけでは不安なので、さらに備えたい、という場合に活用できます。考え方として2つほど注意点をお伝えします。

・収入減少分すべてを備えようとしない

収入減少分をすべてまかなおうとすると、保険料は高くなります。就業不能保険でまかなうのは、あくまで最低限の生活費と考えましょう。当初の1年半は給付金が半額となる、複数商品にて試算したところ、45歳男性、65歳満了、給付金月額40万円の場合、保険料は月約1万円~1万2,000円くらい。一方月額25万円とすると、保険料は月約6,000円~7,000円となりました(支払対象外期間は60日間)。

給付を受けても不足する分については、貯蓄を取り崩すか、別の収入源を得る、支出を減らすことで乗り切りましょう。

・自分がどんな状態に備えたいのか、目的に応じて選ぼう

就業不能保険の支払いは、商品によって条件が異なります。たとえば、精神障害や腰痛などは支払い対象外となるものがある一方で、ストレス性疾病による就業不能状態も対象としている商品もあります。どんな状態に対して備えたいと思っているのか、ご自身の目的に応じた商品選びを心掛けて。実際に支払われるのはどういう要件を満たすときかを、じっくり調べることが大切です。

収入減に備えた家計管理と貯金が大切

業務外の事由であれば原因の種類を問われない傷病手当金と異なり、就業不能保険には支払い対象外となる場合もあるため、「加入したから安心」というわけにはいきません。

そこで、今一度考えていただきたいのは、ご家族みなさんで「備え力」を高める方法です。具体的には、貯蓄を増やす方法と、臨機応変に支出をコントロールする方法、そして可能であれば奥様も稼げるように準備をする方法です。

ご相談者の家計を拝見すると、貯蓄と運用資産合わせて3,600万円あり、年齢的にも決して低くないと言えます。とはいえ、マイホームの頭金や教育費として考えているのであれば、できるだけ手をつけたくないですよね。

そこで、今後もできるだけ貯蓄を増やしていけるよう、家計の見直しをおすすめします。現在は、毎月の収入を支出が超えているようです。中でも目立つのは食費と水道光熱費です。もしかしたら何かお金がかかる理由があるのかもしれません。しかし、せめてお子様が小さいうちは、手取り収入の15~20%は毎月貯めていけるよう、支出全体をコントロールしていきましょう。今のうちに抑えておかないと、お子様の成長にしたがって、生活費はみるみる上がっていきます。

たとえば、食費を20万円→16万円、水道光熱費を8万円→2万円にできれば、これだけで10万円浮きますね。手取り月収の20%となります。ボーナスからも現在は200万円のうち40万円を貯蓄していますが、これを80万円にできると、年間200万円貯められます。貯蓄計画をたてたうえでなお不安な金額について、就業不能保険で備えるとよいですね。

ご家族の状況や今後のライフプランがわからないため、ご相談者のお悩みにどこまでお答えできているかわかりませんが、就業不能保険への備えについてポイントをお伝えしました。ご参考にしてみてくださいね。

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