導入文 読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。
今回の相談者は、62歳、再雇用で働く独身の方。50代で早期退職し、退職金1,200万をもらったけれど、半分ほどまで使ってしまったという相談者。現在も貯金から補填する生活を送っており、完全リタイアした70歳以降の生活が不安だと言います。家計再生コンサルタントの横山光昭氏が運営する『マイエフピー』のFPがお答えします。
再雇用で働いている62歳です。80歳、90歳まで生きるとすると老後資金が足りなくなると思うので、どのようにやりくりしていけばよいかを教えてください。
50代で早期退職をし、退職金を1,200万円ほどもらいました。まだ若かったのでほしいものがたくさんあり、そのお金で高級時計やバッグを買いました。また旅行にも行ったりして、残ったのが690万円ほど。
その後は、60歳を過ぎても長く働ける今の会社に再就職しました。60歳以後は再雇用として、委託社員の扱いで働き、給与は50代より3割ほど減って手取り20万円半ばほどです。毎月は赤字でなんとか暮らしており、貯金を増やすことはできません。
それでも来年63歳になると特別支給の老齢厚生年金を8万円ほど受給でき、収支は黒字化できそうですし、65歳以降の年金受給(約14万円)が始まっても働くと、給料はさらに下がり14万円ほどになりますが、何とか年金と合わせた収入の中で暮らせそうだと考えています。
この会社は給料が下がっても最長70歳まで働けるのですが、問題はそのあとです。補てん額がかなり多くなり、600万円なんてあっという間になくなると思うのです。
こんな年になってからでは遅いかもしれませんが、何とか対策をとっていくことはできないでしょうか。
【相談者プロフィール】
・62歳、再雇用、独身
・手取り収入:月収20万2,000円
・年間ボーナス:約50万円
・貯金:690万円
・毎月の支出の目安:26万5,000円
【毎月の支出の内訳】
・住居費(管理費):2万6,000 円
・食費:9万2,000 円
・水道光熱費:1万5,000 円
・通信費:1万8,000 円
・生命保険料:1万6,000 円
・日用品代:6,000円
・医療費:3,000円
・交通費:2万1,000 円
・被服費:6,000円
・交際費:5,000円
・娯楽費2万8,000 円
・し好品(酒):5,000円
・その他:2万4,000 円
FP:老後資金の不足が心配なのですね。長く働ける見込みがあることは強みですが、少しでも状況をよくするには、支出の見直しをしっかりしたほうがよさそうです。
必要な老後資金はいくら?
老後資金の見込みを立てるために、現状の生活費から将来的に不足する金額を出してみましょう。70歳までは働くこととして計算してみましょう。65歳以降のボーナスが分かりませんから、臨時支出用として貯金から100万円使うと見込んで計算します。
収入となる年金受給額が14万円、今の生活費が26万5,000円ですから、毎月12万5,000円を貯金から補てんする暮らしとなります。1年間で150万円が必要な計算です。70歳から90歳までの20年間の生活費としては、なんと3,000万円がなくてはなりません。今の貯金額ではかなり少ないことが分かります。
70歳以降、労働による収入があまり期待できないとすると、年金と貯金が頼りです。そして貯金を長持ちさせるには、毎月かかる生活費を減らすしかありません。できれば今のうちから支出を絞り、余剰金を貯金や投資して将来に備えることが必要です。生活支出を抑えることが、老後に以外と大きく影響してくるのです。
生きる楽しみを削らずに上手に支出を見直して
まずは支出の全体像を把握しましょう。何にいくらを使って暮らしているのか、自分はどういうお金の使い方をするのかが見えてくるはずです。
客観的に毎月の支出を見ると、食費、交通費、娯楽費が多めであると感じます。必ずしも不要な支出とは言えませんが、支出の中身の精査をしてみましょう。
自炊をあまりせず、外食などで食費が増えているのであれば、中食や無理のない自炊なども取り入れつつ、支出を下げる工夫を考えていきましょう。食費だけに1週間の予算をもうけて管理することも効果があると思います。
交通費は趣味などにより高くなっているのでしょうか。ここを下げるにはかなりの苦痛と我慢が必要だ、というのであれば無理をすることはありませんが、できれば必要な部分となくてもよい部分を切り離し、支出をカットしていくことを検討しましょう。
支出を1万円減らせれば、1年間に必要な老後資金を12万円減らせます。生きる楽しみまで削ことはありませんが、なくてもよいものはカットしていくように検討をしてみましょう。生命保険の保障内容や通信費なども、見直しすると削減できるかもしれません。
年金 月11万でも足りる夫婦もいれば、30万で足りなくなる夫婦も
金融広報中央委員会の「家計の金融行動に関する世論調査(2019年)」によると、60代で無貯金の方は約30%もいらっしゃるそうです。ご相談者は無貯金というわけではありませんが、老後資金のない方・少ない方はやはり、年金を頼りに生きていくしかありません。
年金の受給額が生活費に足りるかどうかは、現役時の働き方や老後の暮らし方により異なります。なかにはご夫婦で国民年金を受給し、月の年金収入は手取り11万円ほどなのに、田舎暮らしで基本的に生活費があまりかからないうえ、趣味の農作物づくりやご近所づきあいによる食べ物等の物々交換で、十分暮らせているという方もいます。一方で年金はご夫婦で30万円近くも受給し、住宅ローンも終わっているのに毎月40万円もの生活費がかかり、老後資金を早期に食いつぶしいそうだという方もいます。
要するに、老後どう暮らすかで必要な生活費が異なるのです。万人に田舎で畑を趣味にして暮らすことが良いとは言えませんから、楽しみの支出と必要な支出のバランスを取り、支出を削減しつつもメリハリのある支出を目指されると良いのではないかと思います。
また、資金が底をつくことが わかれば、ご相談者の場合は住宅を担保にお金を借りるリバースモーゲージも活用できる可能性があります。使い方によっては良くない結果を生むことになるので、制度については十分調べて頂きたいですが、老後の資金繰りの策の一つとして知っておいていただけたらと思います。