「景況、業種間格差が拡大」 日銀長崎支店長 下田尚人氏 新型コロナ 長崎県内初感染から1年

「業種や業態による景況の格差が拡大している」と分析する下田氏=長崎市炉粕町、日銀長崎支店(撮影のためマスクを外しています)

 新型コロナは県内経済にどんな影響を与えたのか。日銀長崎支店長の下田尚人氏に振り返ってもらい、今後の見通しも聞いた。

 -影響は。
 昨年4~6月は日本の成長率が戦後最悪の年率29.3%マイナスとなり、県内も落ち込んだ。観光客が蒸発し、県内総生産(GDP)の6割強を占める個人消費も外出自粛により大幅に減少した。夏場以降は感染への不安が徐々に和らぎ、持ち直してきている。だが飲食や宿泊、交通、イベント関連などのサービス需要は感染リスクが意識されて回復が遅い。一方、モノの消費や生産は改善傾向。業種や業態による景況の格差が拡大している。

 -他県との違いは。
 観光への依存度が高く、受けた打撃は大きい方ではないか。製造業は全国で受注が回復しつつあるが、本県はそうではない。小規模事業者が多く、資金繰りは厳しい。その分、政府や自治体の支援効果が大きい。資金繰りや個人消費を支え、結果として全国と同様、県内全体の極端な悪化は避けられている。

 -過去の不況と比べると。
 特徴は三つある。まずショックが大きく、グローバルな点。代替需要を確保できるような逃げ場がない。二つ目は非製造業の需要減少が著しいこと。影響の裾野が広く、ダメージも大きい。三つ目は「人々の行動変化」「デジタル化」「脱炭素」といった質的な変化が同時に起きていること。経営者にとっては先行きの見通しを立てにくい。

 -今後の見通しは。
 感染状況による振幅はあれど、経済全体は徐々に改善を続けるだろう。好材料は事業規模73兆円に上る政府の追加経済対策。ワクチン接種も進めば、人々の見通しや行動にプラスになる。一方、サービス業などは引き続き厳しく、雇用調整や業界再編の圧力がどう顕在化するか注意が必要だ。

 -回復や再生への鍵は。
 持続的な経済成長は民間の活力から生まれる。今はまだ公的支出で景気を支える状況だが、民間で社会変化を踏まえた新しい挑戦がどこまで広がるか。県内には、半導体分野の設備投資やスタジアムシティプロジェクトを筆頭に、新分野進出やデジタル技術による県外客獲得など好例が多い。こうした前向きな挑戦の輪が広がり、その熱量が県外にも伝わって人々を引きつける地域となるよう期待しており、自分も力を尽くしたい。

 【略歴】しもだ・なおと 1969年、群馬県出身。一橋大法学部卒。92年入行、香港事務所長や金融機構局国際課長、政策委員会室広報課長などを経て2019年8月から現職。


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