藤浪の意識の高さに“犠打の神様”も脱帽「川相バント教室」で何度も質問

藤浪にバントの技術を叩き込む川相臨時コーチ(右)

【赤坂英一 赤ペン!!】阪神・藤浪が9年目で初めて開幕投手を務めることになった。この抜てきに熱い視線を注いでいるのが、宜野座キャンプで臨時コーチとしてバント指導を行った巨人OB、世界犠打記録(533個)保持者の川相昌弘氏(56)だ。

「阪神の投手陣は犠打に対する意識が高く、もともとバント成功率も高いんです。全員が意欲的に取り組んでいた中で藤浪は特に熱心だった。キャンプ中、投手陣を集めてバント練習をしたとき、一番最初に僕に質問してきたのが藤浪でした」

川相氏は「正直、意外な感じがした」という。藤浪は大阪出身で、大阪桐蔭時代に甲子園で活躍し、ドラフト1位で阪神入りしたコテコテの浪速のスター選手。バントのように地味な小技に興味を持っているというイメージがなかったからだ。

その藤浪は、川相氏にこう聞いてきたという。

「外角のボールをバントしようとすると、バットが届きにくいんですよ。何とかバットに当ててもヘッドが落ちる。狙ったところへしっかりゴロを転がすのが難しい。どうしたらいいでしょうか」

外角球のバントは川相氏も現役時代、じっくり研究と練習を重ねた課題のひとつ。藤浪のバントの構えを見て、川相氏がまず感じたのは「ヒザを使わずに上体で準備していること」だったという。

そこで、藤浪にはこう説いて聞かせたそうだ。

「藤浪のように背の高い体(197センチ)で急に頭を下げてタイミングを合わせに行くと、目線がブレてヘッドが落ちやすくなる。手だけでバントしようとするからファウルになったり、失敗したりする。それを調節するのがヒザだ。ヒザを使って外角や低めのボールに対応した方がいいし、ヒザ、ヒジ、グリップを一体化させて準備すればいい。特に、左のグリップをちゃんと握って、ヘッドがボールに負けないように、左の脇を締めてやることだ」

川相氏の言葉にピンとくるものがあったのだろう、藤浪はその後も再三質問をぶつけてきた。他の投手たちも興味をかき立てられたのか、野手陣全員のバント教室は1度だけだったが、投手陣には2度も行ったほど。

ちなみに、川相コーチが「バントがうまい」と認めた投手は西勇。昨季はリーグトップのチーム犠打86個の阪神で、10回企図して9個を記録。犠打成功率9割と、野手並みの数字を誇っている。

今季は1点を争う勝負どころで“猛虎の渾身の犠打”に注目したい。

☆あかさか・えいいち 1963年、広島県出身。法政大卒。「最後のクジラ 大洋ホエールズ・田代富雄の野球人生」「プロ野球二軍監督」「プロ野球第二の人生」(講談社)などノンフィクション作品電子書籍版が好評発売中。「失われた甲子園 記憶をなくしたエースと1989年の球児たち」(同)が第15回新潮ドキュメント賞ノミネート。ほかに「すごい!広島カープ」「2番打者論」(PHP研究所)など。日本文藝家協会会員。

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