日銀のETF購入、方針変更でも株価への影響は限定的と明言できる理由

先週金曜日、日本銀行は金融政策決定会合で上場投資信託(ETF)購入に関する方針の変更を発表しました。買い入れ額について年間約12兆円の上限を感染症収束後も継続するとしましたが、約6兆円の原則については削除しました。

これについては事前の観測通りでサプライズはなかったものの、市場を動揺させたのは「今後、指数の構成銘柄が最も多いTOPIXに連動するもののみ買い入れることとする」としたことでした。つまり日経平均株価に連動するタイプのETFはもう買わないと発表したのです。

これを受けてTOPIXは上昇し、反対に日経平均株価の寄与度の高い銘柄に売りが大きく膨らみ、ファーストリテイリングは急落、もちろん日経平均も大幅安となりました。週明けの月曜日も日経平均は大幅続落。その後も軟調な展開が続いています。


日銀は「株価が下がった時しか買わない」

日銀の方針変更は確かに日経平均売り・TOPIX買いといった短期トレーディングの材料になったかもしれませんが、そもそも日銀のETF購入は株価の本質的な変動要因ではないため早晩落ち着くだろうとみています。

なぜ日銀のETF購入は株価の本質的な変動要因ではないと言えるのでしょうか。その根拠は日銀のETF購入額と株価の推移を時系列で見れば一目瞭然です。

日経平均は昨年秋から上昇基調を強め今年2月には3万円を超えましたが、その間、日銀のETF購入額は減少傾向にありました。

日銀は株価が下がった時しか買わないのだから株価が上昇基調にあった時に購入額が減るのは当然です。それでも日経平均は3万円まで上昇しました。日銀がETFを買わなくても株価は上昇したということです。日銀がETFを買って価格を吊り上げた結果、日経平均が3万円に達したわけではありません。

よく買いが多いから株価が上がったという人がいますが、それは間違いです。売りと買いは常に同数です。そうでなければ商いが成立しませんから値がつきません。ではどうして株価は上がったり下がったりするのでしょうか。それは上値を買う投資家、下値を売る投資家がいるからです。

では日銀のETF買いはそういう買い方をするでしょうか。繰り返しになりますが、そもそも下がった時にしか買わないのですから「上値を買う」ということはないでしょう。すなわち株価を上げるような買い方はしていないということです。

日銀のETF買いは「相場を買い支え」たのか

日銀のETF購入は、「株価を押し上げなかったかもしれないが、買い支えにはなったのではないか」という意見があります。

例えば、2020年の日経平均は年間で16%上昇しましたが、売買代金の7割を占める海外投資家は年間で6兆円以上の売り越しでした。海外投資家が年間で売り越しとなりながらも、2桁の上昇率を達成したのはバブルのピークだった1989年以来のことです。

2020年、日銀のETF購入額は7兆円強と、年間での最大の買い越し主体となり、海外投資家の6兆円超の売りをすっかり吸収し日本株を支えた構図です。

だから「日銀がETFを買わなければ海外投資家の売りをまともに食らって日本株は上がるどころか下落していただろう」という声がありますが、それは所詮、検証できないことです。

「日銀の買いがなかったならば」という仮定では、売りも引っ込んでしまったかもしれません。上述した通り、売りと買いは常に同数です。買いがなければ売れません。閑散に売りなしという言葉はそれをよく表しています。

「日銀の買いがなかったならば」は検証できませんが、買ったらどうだったかは分かります。ちょうど1年前の3月、市場は暴落し続けました。その時、日銀は連日ETFを買いました。でも相場は下げ続けました。日銀の買い入れ額が一段と増加したところで株価は下げ止まったように見えます。でも、それは「日銀がETFを買ったから」下げ止まったのでしょうか。

仮に日銀のETF買いが日本の株価に影響を与えているとすれば、FRB(連邦準備理事会)がETFを購入していない米国株と比べてなんらかの異なった動きが見られるはずです。米国株は下げ続けるが日本株は先に下げ止まるとか、米国株ほど下がらない、などです。そのような動きになっていたでしょうか。

過去1年のTOPIXとS&P500の推移を見てみましょう。両者がまったく同じ動きをしていることが見て取れます。これは日銀ETF購入が株価に与える影響は限定的であることの証左ではないでしょうか。

過度に日銀のETF買いを材料視するのはそろそろやめにして、株価に影響を与えるのは景気や企業業績、金利の動向などファンダメンタルズのほうがずっと大きいという当たり前のことを思い出す時だと思います。

<文:チーフ・ストラテジスト 広木隆>

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