きょうから聖火リレー

 「五つの輪」の旗が初めて掲げられたのは1920(大正9)年のベルギー・アントワープ大会だという。今では誰もが知る五輪のマークは、100年前の大会を機に世界に広まった▲五つの大陸を表す輪を組み合わせている。考案した近代五輪の創始者、フランスのクーベルタンは「スポーツによる世界平和」を唱えた▲五輪が「平和の祭典」ならば、聖火とは平和のシンボルだろう。前にも本欄に書いたが、1964年の東京五輪で聖火リレーの最終ランナーを務めたのは、スポーツで名を成した人物ではなく、広島原爆が落とされたその日、広島県に生まれた一青年だった▲機運を盛り上げるだけではない。「平和あってこその五輪」だと世界に告げる意味も、トーチにはあるのだろう。今夏の東京五輪の聖火リレーがきょう福島県で始まる▲有名人の辞退が相次ぐ中で、大会組織委員会は、沿道では密を避け、拍手で応援を、と呼び掛けている。「とにかくやる」こと。コロナ感染を広げないこと。運営する側はこの二つで頭がいっぱいらしい▲「平和あってこその」とも「コロナに打ち勝った証し」とも言い難い五輪の“シンボルの火”は国民の目にどう映るだろう。ランナーの姿には力をもらうに違いないが「待ちに待った」という高揚感がどうも湧いてこない。(徹)


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