昇格候補の思わぬ苦戦 V長崎 状態上がらず、チームに迷い

第5節の大宮戦、ドリブル突破を止められるルアン(右から2人目)。0―4の大敗を喫した=さいたま市、NACK5スタジアム大宮

 サッカーJ2のV・ファーレン長崎が、思わぬ苦戦を強いられている。第5節を終えて勝ったのは開幕戦の1試合のみ。「惜しい」負け方から、試合を重ねるたびに内容も悪くなり、第5節は0-4と大崩れして1勝1分け3敗の19位まで転落した。今、チームに何が起きているのか。

 V長崎は昨季、4位以下を大きく引き離しての3位。今季は昇格の有力候補に挙げられていた。メンバー的にも選手の入れ替わりが少なく、さらに補強された印象の方が強かった。
 だからこそ、ここまで勝てないのは大方の予想に反する波乱と言えるだろう。ただ、結果が出ていないのにはそれなりの理由がある。開幕前から指摘されていた不安材料が、いくつも表面に出ているように見える。

■ 昨季の代償
 まず挙げられるのは、個々のコンディションの問題か。
 昨季は体力と気力を擦り減らしながら戦った末、わずかの差で昇格を逃した。代償は大きく、故障者が続出。最終節が年の瀬までずれ込んでオフ期間は短く、体に不安を抱えたまま今季の開幕を迎えた選手も多かった。その状態で強行出場して症状が悪化するという悪循環に陥っている。
 特に両サイドバックは現在、本職不在の状況だ。攻撃面で重要な役割を担っていた亀川は、5カ月ぶりに復帰した第3節愛媛戦で存在感を示したが、途中交代して次戦からベンチ外。毎熊も第4節琉球戦で負傷退場した。いわば「両翼をもがれた」ような状態だ。やむを得ず経験が浅い選手を充てているが、周りの能力が高いだけに攻守においてバランスが取れていないように映る。
 となれば個の能力で打開したいところだが、攻守の要であるカイオセザールは体が重く、自らゴール前に持ち込める名倉は思うようにシュート精度が上がらない。「組織」も「個」もぱっとしない状況が続いている。

■ 指揮官交代
 今季から指揮を執る吉田監督はコーチからの昇格で、V長崎の戦術を熟知している。クラブは「無難にやれば昇格できる」という考えもあってチームを委ねた。ただ、有能なコーチと有能な監督は、必ずしもイコールとは限らない。指揮官交代がどう転ぶかは大きな焦点だったが、現状を見れば成功とは言い難い。
 第2節で3バックを採用して敗れ、第3節は攻勢を強めたいタイミングで交代策がはまらずに愛媛を仕留めきれなかった。第4、5節はメンバーもポジションも大胆に入れ替えた策が裏目に。起用選手がことごとく活躍した昨季とは対照的だ。
 「監督という立場は決めないといけない。11人を選ばないといけないときに、どうマネジメントできるか」。開幕前のインタビューで吉田監督はそう話していたが、今の采配からは迷いもうかがえる。
 ボールを大事にして、複数のパスコースをつくりながら相手を揺さぶる。そうして「勝つ確率を上げる」のが指揮官の掲げるサッカーだ。組織で戦うことが大前提にあり、そのため攻守において「決まり事」を設定している。方向性は間違っていない。
 一方で理想に偏りすぎて、この戦術が選手たちの「足かせ」になっている可能性はある。主将の秋野は「チームとしてやるべきことをみんながやろうとしすぎて、サッカーに夢中になれていない。意識してやるのと無意識でやるのは違う」と危機感を募らせている。
 頭で考え、味方の位置を確認しながらプレーする。だから一歩目が遅れたり、大事なところで体を張れない。「丁寧」にやっているつもりが、実際は「無難」な選択をしてチャンスを逃す。球際で勝てない。そんなシーンが目立っている。

■ 戦う気持ち
 第5節大宮戦で4失点目を喫した一連のプレーに、V長崎がうまくいっていない最大の理由が垣間見えた。
 相手からのロングボールが自陣右サイドで鍬先に触れてタッチラインを割った。主審が示したのは「大宮ボール」。ここでフレイレが判定に猛抗議。プレーを止めて主審に詰め寄った。相手はお構いなし。完全フリーになったゴール前の選手へスローインが送られ、そのまま失点した。
 たとえこの失点を防いでいても、勝てた確率はかなり低い。それでも、最後まで最善を尽くすのがプロの責任。あの瞬間、V長崎の選手は気持ちが切れてしまい、大宮の選手は走り続けていた。
 要はスポーツにおいて基本中の基本である気力が欠けているのではなかろうか。
 何が何でも勝つ。そんな迫力が、少なくとも直近の試合からは感じられなかった。指揮官が「戦術以前にもっとメンタル的な部分の強度を増さないといけない」と求めていたにもかかわらずだ。統率力がないのか、まだ序盤という妙な余裕がチームにあるのか。戦う集団になりきれていない。
 次節のホーム戦で敗れたら3連敗となる。最下位に転落する可能性もある。まさに背水の陣。指揮官だけに責任を押しつけるのも酷だが、誰もがカンフル剤を欲しているのは確かだ。「心技体」の向上が求められる。

 


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