日銀短観って何?株式投資に活用するための読み解き方

新聞や、ニュースで、年度初めの4月上旬や1年が終わろうとする12月中旬に「日本銀行が発表した日銀短観では大企業製造業の業況判断DIが3四半期ぶりに回復した」という記事を目にするかもしれません。3か月に1度の機会のため、名前は知っているけど詳しくは理解していない個人投資家も多いでしょう。今回は日銀短観をどのように読み解くかを紹介します。


日銀短観って何?

名前だけは聞いたことがある人も多い「日銀短観」ですが、正式名称は「全国企業短期経済観測調査」です。日本銀行が発表しているので、日銀短観と略されて使われることが一般的になっています。

冒頭にも書いた通り、3か月に1回、つまり四半期に1回発表されます。公表されるのは4月初旬、7月初旬、10月初旬、12月中旬の年4回となっています。

日本銀行が全国の資本金2,000万円以上の民間企業(金融機関を除く)約21万社のうち、約1万社に対して、毎年3月、6月、9月、12月に調査を実施しています。調査実施月と公表月を見てもらうと分かると思いますが、日銀短観は非常に速報性が高いため投資家だけでなくエコノミストなどの専門家も重視している経済指標です。

データは細分化されており、資本金を基準に、大企業(資本金10億円以上)、中堅企業(同1億円以上10億円未満)、中小企業(同2千万円以上1億円未満)に区分しています。また、総務省が告示する「日本標準産業分類」をベースに、業種も製造業と非製造業に分けたうえで、更に製造業を17業種、非製造業を14業種に区分しています。

コロナ禍と通常の不況の違い

規模や業種が細かく区分されているのは私のようにデータを扱う人間にとっては有難いことですが、これから初めて日銀短観を見てみようという人にはどこから見ればいいか迷ってしまうかもしれません。

まずは、大企業の製造業と非製造業の区分で比較してみましょう。日銀短観は発表された四半期の翌四半期の予測値まで公表されているので、そこまで見ましょう。

業況判断DIとは、収益を中心とした業況についての全般的な判断を1:良い、2:さほど良くない、3:悪いの3択で回答してもらい、回答のうち「良い」と答えた社数から「悪い」と答えた社数を差し引いた数値になります。

通常の不況であれば最初に製造業が大きく落ち込み、非製造業が連動して落ち込んでいく動きをしますが、今回は非製造業が大きく落ち込み、回復も製造業よりも鈍いということが上図から分かります。

やはり、今回の新型コロナウイルスの感染拡大による景気の悪化は、感染防止のために外出自粛要請や飲食業への時短営業要請で、非製造業のなかでも特にサービス業が大きく落ち込んだという特殊要因があります。

産業ごとにダメージも回復度合いも違う

さて、大企業の製造業と非製造業という大きな2つの区分を確認した後は、細かい業種ごとの業況判断DIを見ていきましょう。まずは製造業の中から石油・石炭製品、鉄鋼、非鉄金属、金属製品の4業種のDIを並べたのが下図になります。

多少の違いはあれど、この4業種は似たような動きをしていますね。昨年の第2四半期を底に回復傾向にあります。それでは、未だに収束の目途が立たないコロナ禍においてもこの4業種が早くも回復にある理由は何でしょうか?

たとえば石油・石炭製品に関しては、原油価格の持ち直しや寒波に伴う燃料需要の増加があります。また、米国や中国を中心に製造業の投資が回復したことによって、鉄鋼や電線・ケーブルへの需要が高まったことで、鉄鋼や非鉄金属、金属製品が回復したのでしょう。

続いて、他の業種も見てみましょう。はん用機械、生産用機械、電気機械、自動車の4業種です。

この4業種も先程の4業種に似た動きをしています。ただ、自動車が大きく落ち込んでいたことも分かります。半導体関連産業が好調なことから生産用機械が足元では急速に回復しており、またリモートワークの普及や教育現場への情報端末の導入、積極的に5G関連の投資が行われ電気機械が好調だったと分かります。

各業種の動きを見ながら、その動きになった理由を探ることで、様々なニュースを業種の動向と絡めて理解できるようになります。

個別銘柄の前に産業から絞っていく

つづいて、今度は非製造業の業種を見ていきましょう。運輸・郵便、情報サービス、対個人サービス、宿泊・飲食サービスの4業種です。

この4業種は先程見てきた製造業の8業種と違って、それぞれDIの水準がバラバラですね。リモートワークの普及やソフトウェア投資が増えたことで、情報サービスはコロナ禍においてもDIがプラス水準をずっと維持していました。運輸・郵便はずっとDIがマイナス圏ではあるものの、落ち込みはそれほど大きくなく、回復傾向にあります。この業種は少し注意が必要で、感染拡大防止のために旅行需要が大きく落ち込んだ一方で、EC利用の増加に伴う宅配需要の増加という大きく落ちた業種と大きく伸びた業種が1つにまとまっているため、上図のようなDIになっています。

そして、やはり対個人サービスと宿泊・飲食サービスはDIが大きく落ち込み、なかなか回復していません。今回のコロナ禍で最も大きなダメージを受けた業種なのでイメージ通りのグラフかと思います。

現在、日本の証券取引所には3,700社以上が上場しており、株式投資を始めようとする未経験者からすると、まずどの企業の株に投資をすればいいのか、銘柄を選ぶことが最初のハードルになってしまいます。

そこで1つの方法としては、すぐに特定の銘柄を選ぶのではなく、日銀短観を活用して、自分が投資したいと思える業種を探してみる。そのあとにその業種に属している企業の一覧を証券会社のスクリーニング機能を使って抽出し、業績や株価指標、株価の動きなどを見ながら投資先を選んでいく。銘柄選択に悩んでいる未経験者や初心者にはお勧めしたい1つの方法です。

(文:株式会社マネネCEO / 経済アナリスト 森永康平)

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