元郵便局長10億円超詐取か 「利率の良い特別枠」信頼関係悪用、言葉巧みに

郵便局を巡る最近の不正事案

 「利率の良い特別枠」「信頼できる人にだけ案内している。内密に」。長崎住吉郵便局の元局長が架空の郵便貯金で知人らから10億円超の現金を詐取した可能性があると6日、発表された。勧誘を受けた長崎市内の経営者らは長崎新聞の取材に応じ、当時の状況を振り返った。地元の郵便局長で名士、その信頼関係を悪用し言葉巧みに勧誘した“手口”が垣間見える。
 経営者は昨年12月、10年以上の付き合いという元局長から電話で「九州の局長でも限られた人間だけが持っている、利率の良い特別枠を持っている」と持ち掛けられた。元局長は2019年3月末に退職していたが、「内緒の話だから誰にも言わないでほしい」とくぎを刺し、2千万円の貯金を提案。経営者が「お金がないから」と断っても「500万円でもいいから」と食い下がったという。
 元局長は地元のロータリークラブで役職を務め、知人とゴルフ旅行に行ったり自宅でパーティーを開いたり「面倒見が良かった」という。経営者は被害を免れたが、発表を受け「まさか、だますようなことをするなんて」と言葉を失った。
 長崎市の80代女性は数カ月前、元局長から「郵便局の枠(ノルマ)が足りないから(預金を)自分の郵便局に移してもらえないか」と相談を受けた。まじめな人柄と疑うことなく、500万円を預けることに決めた。元局長は銀行に同行してきて、女性が現金を引き出し渡すと、元局長から書類の入った封筒を手渡されたという。
 銀行に同行し現金を手渡しでやりとりしたことを不審に思った親族に促され、女性が元局長に返還を求めると全額が戻り、事なきを得た。女性は多数の被害者がいると聞き「『あの人の言うことなら』とみんな信用するもの」。複雑な表情を浮かべた。


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