ミスを怒ったら“イエローカード”も… ミズノが支援する少年少女野球大会の理念

ミスを怒ったら“イエローカード”も… ミズノが支援する少年少女野球大会の理念とは【写真提供:ミズノ株式会社】

体操服、運動靴でもOK! 大会理念には5つの約束事

怒声、罵声が飛び交う野球の時代はもう終わりにしたい。スポーツメーカー大手のミズノが新たな取り組みを発表し、話題になっている。小学生を対象にした軟式の全国野球大会「MIZUNO BASEBALL DREAM CUP Jr. Tournament2021 Supported by Brand Ambassador」を開催。野球を楽しむことを理念に掲げ、“ミスを怒らず、みんなで助け合う”野球大会を目指していく。一線を画した規定を定めた背景には「野球界を変えていきたい」という同社の思いがあった。

これまで多くの野球大会を協賛企業として支援してきたミズノが、主催側となってビッグイベントを手掛ける。子どもたちへの“参加条件”は従来の概念を覆す要綱がいくつも含まれていた。

まずは大会理念に目を奪われる。

「みんな笑顔で楽しもう ミスを怒らず、みんなで助け合う野球大会」と記されている。また5つの約束事として、以下の言葉がある。

1.元気いっぱいプレーしよう!

2.気軽に参加しよう! 体操服・運動靴でもOK

3.みんなが主役! 1人でも多くの選手が試合に出よう

4.みんなでこの大会を盛り上げよう

5.失敗した時こそ、励ましあおう

登録選手の上限をなくし、交代した選手が再出場可能なリエントリー制度の採用、不揃いのユニホームでの参加もOKだ。ヘルメットや捕手の防具がない場合はミズノが貸し出すという。

担当のミズノ株式会社ダイアモンドスポーツ事業部の古谷幸平さんによると、「参加へのハードルを極力下げたい」という思いが根底にあった。

「ユニホームを買って揃える必要もありませんし、野球のプレーが未経験、馴染みのない子どもたちにも参加してほしいです」。グラブやバットを持っていない子にはミズノが道具を貸し出す。運動靴での参加も問題ない。とにかく、プレーする楽しさを知ってもらうことが一番の目的だ。

同社では昨夏からこのプロジェクトが始動。コロナ対策も考えながら、会議を重ねてきた。古谷さんも中学時代は兵庫のシニアでプレーしてきた経験者でもあるため、最近の野球人口の低下を憂い、野球界で浮き彫りとなっている問題に目を向けた。

ミスを怒ったら“イエローカード”も… ミズノが支援する少年少女野球大会の理念とは【写真提供:ミズノ株式会社】

野球界にはまだそんな慣習があるの? 子どもたちに楽しい野球を届けたい

「怒られながら野球をやっていた経験がある方も多いと思います。一方で野球をやっていない方がこの私たちの大会理念を見た時、『野球界ってまだそんな慣習があるの?』と感じるかもしれません。このような理念を掲げることで、野球界を変えていきたいという思いがあります」

昨今の子どもたちの野球離れは古くからの慣習も大きく関わっている。成長のために必要な叱りも場合によってはあるが、あえて怒声、罵声などの悪しき流れを前面に出すことで、浄化したい、本来の野球の楽しみを一から伝えたいという願いがある。このように少年野球を語る際に怒声、罵声が話題に上がらなくなるような野球界になることを願う。

採用されたルールをひとつひとつを切り取ってみると、賛同できるものが多い。例えば“リエントリー制度”は子どもたちの出場機会増に繋がる。試合に出るから楽しい。楽しいからもっとうまくなりたい。できないから悔しい。だから練習して試合で試したい。といった具合に好循環が生まれるだろう。

大会は都道府県別予選は5月初旬から8月末にかけて行われ、全国大会は茨城・水戸市で9月から12月初旬にかけて予定され、1500チームの参加を目標としている(締め切りは4月19日)。怒声や野次など“怒る行為”や挑発などがあった場合は、全国大会では少年野球団体のポニーリーグが提唱しているようなイエローカード(警告)を出し、2度目で退場措置をとることも検討しているという。

「エントリーの方法は様々です。野球チームでも野球をやったことのない子ともたちが参加してくれるとうれしいです。例えば、学校のクラス対抗として『6年1組』みたいな参加の形も面白いと思います」

全国大会の上位になれば、ミズノのアンバサダーとなっているプロ選手との対面も実現するかもしれない。

同社の創業者・水野利八氏は、夏の甲子園の原点となる関西学生連合野球大会の開催など、生涯、スポーツの普及に情熱を捧げた。その思いは後世にも確かに受け継がれている。野球を通じて、子どもたちに楽しい時間を――。この取り組みが野球離れの要因のひとつを解決する一手であることを証明する大会になってほしい。(楢崎豊 / Yutaka Narasaki)

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