【日曜論説】川坂川を守る会 延岡支社長兼論説委員・久保田順司

持続可能な里づくり先導

 延岡市北川町の川坂地区は、農村地帯という表現がぴったりの集落だ。湿原が広がり希少な動植物が息づく奥地のようで、東九州自動車道や国道10号へのアクセスが良い場所なのを忘れさせる。人口300人弱の地区は近年、持続可能な地域づくりのフロントランナーとして注目されている。
 住民を引っ張るのは「川坂川を守る会」(安藤重徳会長)。川坂湿原に県内外の研究者らが注目するようになったのを受けて11年前、10人で立ち上げた。「自然と人が元気な里地・里山づくり」を目標に、湿原の維持・管理を軸にさまざまな活動を行う。異業種の会員は現在、30人を超える。
 もともと地区では、農業用水となる川の水質を保つため「溝さらえ」と呼ばれる住民総出の清掃を100年以上続けている。自然を守る取り組みは日々の暮らしに根付き、ことさらに保護を意識することはなかった。そこに湿原保全という風が吹き、住民は目の前にあるのは宝で、地域が元気でないと後世に引き継げないと気付いた。
 川坂地区でも少子高齢化やコミュニティーの活力低下、耕作放棄地などの課題は深刻だ。加えて、ひとたび大雨が降れば北川はあふれ、集落を水没させる水害常襲地帯でもある。それでも住民の多くは「力を合わせれば何とかなる」と前向きだ。
 動き始めると、守る会は切れ目なくプロジェクトを展開した。農作物や希少植物を荒らすシカ、イノシシ防除対策、里山林の整備、耕作放棄地でのソバ栽培、資源ごみ換金による街灯のLED化…。精力的な活動が評価され、農林水産、国土交通大臣表彰や地方紙と共同通信による地域再生大賞優秀賞などを次々と受賞した。
 同様の活動が全国で展開される中、守る会はなぜ注目を集めるのか。目標が明確で、小さな集落ゆえに住民の絆が強いなど、活動が前進する素地が整っているのは確か。その強みを生かし、安藤俊則事務局長が言うところの「巻き込み力」が遺憾なく発揮されている。
 目標に応じ地域の各団体を活動に引き込み、人手とノウハウを得る。国、県、市、企業からの補助金や交付金は一昨年までの9年間で2700万円以上確保した。西南戦争ゆかりの地という歴史を糸口に日南市飫肥地区と交流するなど、関係人口の創出も忘れない。
 物心両面の応援がどんどん集まるのは、里を守り生きていくという地域住民の本気度が伝わればこそ。守る会10年間の活動でメンバーが得た最大の気付きは「行動せんと始まらん」だという。SDGsや地方創生という変革に挑む人たちの合言葉に聞こえる。

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