【東京五輪】アスリート、コーチは冷静に現実直視…選手の父「五輪があるとは思っていません」

五輪初出場が内定した男子の萱和磨(代表撮影)

東京五輪開催に対する逆風が世界中で吹き荒れる一方で、アスリートたちは腹をくくっているようだ。体操の五輪代表選考会を兼ねたNHK杯(長野・ビッグハット)では五輪内定選手から現実を受け止める言葉が相次ぎ、家族やコーチからは「中止」を覚悟する声も出始めた。国際オリンピック委員会(IOC)や大会組織委員会は〝強行開催〟の姿勢を崩さない中、現場サイドは冷静に「万が一」の可能性を想定している。

1998年長野五輪の会場となったビッグハット。五輪マークが掲げられる特別な場所で、夢舞台に懸ける選手たちの戦いが繰り広げられた。共同通信による世論調査では、東京五輪中止を求める声が59・7%。世の中はとても開催ムードとは言えないが、むしろアスリートたちは冷静に現実を直視していた。

NHK杯で2位に入って五輪初出場が内定した男子の萱和磨(24=セントラルスポーツ)は表彰式で「5年、長かった」と涙。しかし、すぐに冷静さを取り戻し「世間ではいろいろな考え方があって…」と前置きした上で「仮に五輪がなかったとしても大好きな体操はやめない。どのような結果になろうが、僕たちは真っすぐ前を向いて頑張ります」とスピーチした。

同じく初の五輪切符をつかんだ女子の畠田瞳(20=セントラルスポーツ)は「出場したい気持ちはやまやまですが、もし(五輪が)なくなっても、内定者として五輪に出るだけの実力はあったと言えるところにきたので結果には満足」と、俯瞰して現実を見つめていた。当然、アスリートたちは五輪開催を信じて猛練習を積んでいる。ただ、一方では中止も想定していることが言葉から感じ取れる。

大会出場者の家族からは開催を諦めたかのような声も出ていた。ある選手の父親は「五輪があるとは思っていません」。某所属チームのコーチは「開催しない可能性の方が高いから、それも想定している」と中止を見据えた。さらに「東京がなくなってもパリがあるので大丈夫です」と前向きにとらえる現場スタッフもいた。

先日の陸上テスト大会(国立競技場)では女子1万メートル代表の新谷仁美(33=積水化学)が会場外で行われた「五輪中止」を求めるデモについて「スポーツに対してネガティブな意見を持っている方は当然いる。その人たちの気持ちにどう寄り添っていけるかが重要」と話していた。いまや開催一辺倒なのはIOCと組織委、一部の政治家だけ。アスリートの方がよっぽど地に足を付けて現実を見つめていると言えそうだ。

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