【追う!マイ・カナガワ】精神障害者のバス割引(上)神奈川、なぜ多い「対象外」

横浜市内を走るバスと、県が発行する精神障害者保健福祉手帳のコラージュ。県内では多くのバス会社が精神障害者割引を実施していない

 「身体・知的障害者はバス運賃が割引されるのに、いつも乗る路線バスでは精神障害者だけ割引されません。なぜでしょうか」。神奈川県愛川町に住む60代の会社員女性から神奈川新聞社の「追う! マイ・カナガワ」取材班にこんな声が寄せられた。身体・知的障害者と同様に、精神障害者にも手帳が発行され、さまざまな支援が受けられるはずだが…。

◆重要な交通手段なのに

 女性は約30年前から家族の介護をきっかけにうつ病を患い、現在はストレス障害があるという。20年ほど前に車の運転が怖くなり、免許を返納。同時に精神障害者保健福祉手帳を取得し、現在も通院などで県央地区の路線バスを利用している。

 女性は「以前は閉所恐怖症もあり、混雑したバスが苦痛で途中下車して乗り直すこともあった。運賃が高くつくので、1日乗車券を使うなど工夫していました」と苦労を明かす。

 運転免許を返納した理由も、うつ病の薬の影響で眠くなり「事故が心配だったから」。精神障害者手帳を持つ人の中にはてんかんなどで運転できない人もおり、バスは重要な交通手段の一つとなっている。女性は「つらい思いをしてバスに乗る人の気持ちを分かってほしい。3障害を平等にしてほしいです」と訴える。

 県や県バス協会に聞いてみると、独自の助成制度がある横浜、川崎市以外の地域では、路線バス19事業者のうち、県西部を走る4社を除き、精神障害者への割引はないという。

 ただ調べてみると、東京や埼玉、静岡など近隣都県では多くのバス会社が割引しているようだ。なぜ対応に違いがあるのか、事情を探った。

◆企業努力頼み

 介護が必要な身体・知的障害者の場合、介護者と合わせた2人で1人分の運賃となるよう半額割引したり、無料にしたりする公共交通機関が多い。3障害とも割引に対する国の補助はなく、基本的には「事業者負担」であることは同じだが、精神障害者は対象外となるケースが少なくない。

 県内の路線バスの割引状況について、県障害福祉課に尋ねた。

 公共交通の割引は、身体障害者は当時の国鉄を皮切りに1950年、知的障害者は91年からスタートした。50年に身体障害、73年に知的障害の手帳交付が始まったことを受け、それぞれ広まったようだ。

 一方で同課の担当者は「精神障害は手帳制度が始まったのが95年と遅いんです。また、対象者数も多く経営負担が大きくなることなどから、事業者にはご協力いただけていない」と事情を明かす。

 横浜・川崎の両市は独自予算で、市内に住む精神障害者であれば市内のバスに無料乗車できる施策を97年から行っているが、「県も同じようにやるには億単位のお金が必要で、結局バス会社の企業努力に頼ることになってしまう」。県は15年前から精神障害者への割引実施をバス協会を通じて各社に要請しているが、実現したのは県西部を走る4社にとどまるという。

© 株式会社神奈川新聞社