うつ病からの復活を目指す元有望株・アーセグ 二刀流を経て投手転向

アルコール依存症とうつ病を乗り越えてメジャー昇格を目指している選手がいる。2016年ドラフト2巡目指名でブリュワーズに入団したルーカス・アーセグだ。現在26歳のアーセグは、新型コロナウイルスのパンデミックの影響でマイナーリーグが中止となった2020年にアルコール依存症とうつ病で苦しんだという。今でも暗い気分で目覚めることがあるそうだ。しかし、それを公表し、三塁手から二刀流を経て投手に完全コンバートされ、念願のメジャーデビューを目指している。

アーセグのグラブには「6/10/20」と刺繍されている。これはアーセグが禁酒を始めた日だ。カリフォルニア州サンノゼ郊外のキャンベルで育ったアーセグは、父親と仲が悪く、母親はアルコール依存症だった。母親は現在も問題を抱えており、「そのせいで母親と3年間話していない」という。高校時代は学業の成績こそ良くなかったものの、打撃と投球の両方で才能を発揮し、大学野球の強豪カリフォルニア大学バークレー校への入学が決まった。しかし、飲酒やグラウンド外のトラブルによって入学を断念することになり、メンロー大学へ進学した。

そこでジェイク・マキンリー(現ブリュワーズ選手育成副部長)と出会ったアーセグは、三塁手兼クローザーとして活躍。ブリュワーズからドラフト2巡目指名を受け、115万ドルの契約金を手にした。アーセグはその大金でビールがたくさん買えることに気付き、「5~6杯飲んだら次の日に3打数2安打。だから、飲酒が問題だと考えたりはしなかった。4杯飲んでヒットを1本打てるなら、8杯飲めば2本打てるだろう」といった具合にアルコールへの依存度を高めていった。

プロ1年目こそマイナーリーグで3割を超えるハイアベレージを残したアーセグだったが、酒に溺れる生活を続けていくうちに成績はどんどん下降していった。2019年にはマイナーリーグ最上位のAAA級に到達したものの、116試合に出場して打率.219に終わり、マイナーリーグが中止となった2020年に参加した独立リーグでは28試合で打率.180しか打てなかった。パンデミックによる不確実性のなか、自宅近くのコンビニへ行くことで怠惰な日々を満たしたいという衝動に駆られ、アルコール依存症とうつ病による苦しい日々を過ごすことになった。

しかし、そこから抜け出すために酒をやめることを決心した。禁酒初日に「すべてが明るく見えた」というアーセグは、昨年7月にフィアンセのエマさんとの婚約を発表し、うつ病や自殺願望に悩むアスリートを支援するプログラムを立ち上げることも検討しているという。アーセグ自身は「今でもときどき暗い気分になることがあるけれど、ネガティブに受け止めないことが大切だ」とうつ病との付き合い方を見つけたようだ。

2年ぶりにマイナーリーグが開催された昨季、アーセグは大学時代の恩師でもあるマキンリーから投手再開のプランを提示され、すぐに賛成した。当初は二刀流でプレーしていたが、7月以降は投手に専念。AA級で22試合(うち13先発)に登板して2勝6敗、防御率5.29に終わったが、スピードガンでは99マイルを計測することもあり、上々の再スタートを切ったと言えるだろう。

マキンリーは「彼が1つのことに集中したときにどうなるか興味があったんだ。上手くいくと思う」と語る。アーセグも「2度目のチャンスをもらえることなんて、そう多くはない。文句なんて言えないよ。素晴らしい機会だし、すべての瞬間を楽しんでいる」と手応えを感じているようだ。

昨年8月、プロ初勝利を挙げたときにノンアルコールビールで祝杯をあげたアーセグ。現在は「あれは人を暗い空間に追いやるものだった」といううつ病を乗り越え、メジャー昇格に向けて努力を続けている。「朝起きて、何のために頑張っているんだろうと思う日もある。でも、ベッドに寝ころんだまま、そんなことを考え続けるつもりはない。起きてコーヒーを淹れるだけで前向きになれるんだ。自分の感情や考えをすぐに否定せず、認識して上手く付き合っていくことが重要だと思う」。困難を乗り越え、ひと回りもふた回りも強くなったアーセグの今後に注目だ。

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