「完敗、力負けだった…」日本Sで実力差を感じた広島が必死で過ごす秋季キャンプ

広島・安部友裕(左)と野間峻祥【写真:荒川祐史】

雰囲気はレギュラーシーズンと何も変わらなかったが…

 またしても頂点に手が届かなかった広島東洋カープ。シリーズ中から甲斐拓也を筆頭に、ソフトバンクのいい面がクローズアップされている。果たして、この2チームの違いは何だったのか。そして、広島関係者は現在、何を思っているのだろうか。

 日本シリーズから1週間あまり、世間の話題は日米野球にシフトした。侍ジャパンは自分たちの野球でMLBオールスターを圧倒。広島では大瀬良大地、ドジャース前田健太の新旧エースが投げ合うなど、盛り上がりを見せていた。それと時を同じくして、来たるべきシーズンに向け、各地では秋季キャンプが行われていた。

 宮崎県日南市ではカープが濃密な練習を行った。自前選手の育成がチームの大きな柱となるだけに、この時期の技術力アップは欠かせないもの。朝早くから夜間練習まで、球音が途切れないのは南国での風物詩にもなっている。しかし、今キャンプはどことなく雰囲気が違うのは気のせいか。時間は過ぎているにもかかわらず、いまだに何かが止まってしまっているような錯覚を起こさせるものがある。

 日本シリーズで、広島はソフトバンク相手に1勝4敗1分けと敗れ去った。連日の拮抗した戦いに、誰もが熱くなったシリーズ。しかし、34年ぶりの日本一という念願は叶わなかった。そして、広島関係者は数字以上の実力差と、現実を目のあたりにさせられたのも間違いない。

「チーム状態は悪くなかったし、打線も振れていたと思う。でも、思った以上にソフトバンクの投手陣、特にブルペンが良かった。出てくる投手ほとんどが150キロ近い球を投げてくる。その部分に関しては、データなど戦前に想像していた以上だったかもしれない。だから、攻撃に関して考えると、西武の方がやりやすかった、点をもっと取れたかもしれない。もちろん西武打線はものすごいので、打ち勝たないといけなかったのですが……。雰囲気は最後までシーズンと変わらない感じでしたけどね」

 同行しているチーム関係者によると、シリーズを通じて決して雰囲気は悪くなかったという。では、実際の選手はどう感じていたのだろうか。

日本シリーズで2本塁打の安部「ある意味トーナメントみたい」

「悔しいですね。今はそれしかない。少し時間が経っているんですけれども、忘れられないというか……。もちろん負ければいつも悔しいですが、ここまで悔しいのも久しぶりかもしれない」

 最初に語ってくれたのは、シリーズでは2本塁打、5打点の安部友裕。

「自分がどんなに打っても、こういう戦いは、ある意味トーナメントみたいで負ければ終わり。それに本塁打と言っても勝利につながっていないですからね。仮にもっと打ったとしても、自分の結果うんぬんではなく、勝ちたかった。それしかない」

 89年生まれの安部は、チーム内では中堅と呼ばれる立ち位置となってきた。同学年4人のうち、田中広輔、菊池涼介の2人は侍ジャパンに選出。そして、丸佳浩がフリーエージェント(FA)宣言したこともあり、安部1人だけが秋季キャンプには参加。多くの若手選手たちに混じり、悔しさを噛み締めるよう練習メニューをこなしていた。

「骨折したこともあるので、全てが同じメニューというわけではない。でも、試したいことや、やらなければいけないことはたくさんある。だから、時間はどんなにあっても足りないくらい。今の自分に足りない部分があったから、チームに貢献できないで、日本一になれなかったわけですからね。そういう意味では現実も見せられましたから……」

シーズンと短期決戦の違い、盗塁を成功させる前に終わったシリーズ

 今回の対戦でクローズアップされたのは、シリーズMVPを獲得したソフトバンク甲斐拓也捕手の守備。特に広島が企図した6回の盗塁は全て刺されてしまった。「甲斐キャノン」と呼ばれた強肩は連日のようにメディアが取り上げ、はなから盗塁できないような雰囲気さえできあがっていた。

「肩が強い、走れないと言っても100%アウトにできるわけもない。甲斐君だって4割くらいの刺殺率ということは、単純に2回に1回はセーフになる。でも、それがシリーズの最初から続けざまに来てしまった。もしかすると、もう1回走ればセーフになったかもしれない。もちろん、後の祭りなんですけど……。だから、そこまで盗塁に関してナーバスにはなっていなかった。でも、それが短期決戦の怖さなのかもしれない」

 野間峻祥が語ってくれたのは、シーズンと短期決戦の違いだった。

 野球の数字というのは正直だ。打者が打率3割を打つのが難しいように、年間でならすと毎年、ほとんど変わらない数字が出てくる。甲斐のシーズン盗塁阻止率は.447というのは、ものすごいことである。しかし、盗塁企図回数が増えれば、当然、刺せないことも出てくる。そうなる前にシリーズは終了してしまったのだ。

「肩の強さだけじゃなく、コントロールがいい。あれは捕球から送球までの流れが無駄なくスムーズだから。基本に忠実だと思います。また、盗塁阻止ばかりが言われますが、キャッチングやブロッキングなど全てにおいて一流。甲斐君は本当にいい捕手だと思います」

 磯村嘉孝は試合出場こそなかったが、ベンチで両チーム捕手から目を離さなかった。自身も捕手としてレベルアップを図っている中で、勉強になることも多かったという。

「分析して語るのは簡単だけど、何を言っても負け犬の遠吠えになる」

「結論から言うと、すべてにおいて完敗、力負けだった。シーズンを通じて戦い、その中で目指してきたのは頂点でした。足りないものがあれば、それを補うためにいろいろと準備したし、試した。シリーズも厳しい戦いになるのは分かっていた。だから、コンディション、データなどを含め、選手、そして我々スタッフ一同、やれることをやった。しかし、ソフトバンクがそれを上回った。それが現実」

 準備を怠らなかった自負がある。その分、負けてしまった場合にはどこかに理由を求めたくなってしまう。しかし、廣瀬純コーチは、理由は地力不足以外にないと語ってくれた。

「周囲から甲斐の肩が強いのは分かっていたのに、盗塁以外の他の作戦はなかったのか、という声も聞こえる。タイミングはセーフだったかもしれないのに、送球がちょうどタッチしやすい場所に行ったこともあった。でも、こういうことも含めて勝負だし、それを上回ることができれば勝てる。色々と敗因などを分析して語るのは簡単だけど、我々の役目ではないし、それこそ何を言っても負け犬の遠吠えになってしまう」

 日本一。届きそうで届かない、こぼれ落ちてしまった大きな夢だった。

 目の前にある高すぎる壁に阻まれた。しかし、そこから目を背け、回り道しても何も変わらない。広島は今、それをぶち破ろうと必死になっている。

「ここから選手がどう考えて何をやろうとするか。気持ちが弱くなって、勝てないかも、となってしまうのか。絶対に勝ち取る、登り詰めると思ってひたすらにやるのか。これからが重要なんです」

 広瀬コーチがコメントしている横を、汗びっしょりの選手たちが通り過ぎる。疲労が蓄積し休みたくなる時期だが、気持ちを奮いたたせて踏ん張る選手を温かく見守っていた。

「この秋のキャンプは本当に大事。時間に余裕があるので、他の選手がやっていて良さそうなものも試せる。あっという間に年は明けてしまうから、時間に余裕はないんですよ」

 安部の手には常にバットが握られており、話が終わるとすぐに素振りを始めた。(山岡則夫 / Norio Yamaoka)

山岡則夫 プロフィール
 1972年島根県出身。千葉大学卒業後、アパレル会社勤務などを経て01年にInnings,Co.を設立、雑誌Ballpark Time!を発刊。現在はBallparkレーベルとして様々な書籍、雑誌を企画、製作するほか、多くの雑誌やホームページに寄稿している。最新刊は「岩隈久志のピッチングバイブル」、「躍進する広島カープを支える選手たち」(株式会社舵社)。Ballpark Time!オフィシャルページにて取材日記を定期的に更新中。

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