【この人にこのテーマ】〈リサイクル産業の変化と対応〉《ハリタ金属・張田真社長》雑品問題や人材確保難など 環境変化をビジネスチャンスに

 リサイクル業界では目下、雑品問題をはじめ人材確保難など事業環境の急速な変化に対する危機感が高まっている。リサイクル企業・ハリタ金属(本社・富山県高岡市)ではこうした時代の変化を好機と捉え「We create」の企業理念のもと、事業のみならず会社、人材など新たな価値をつくり続けている。業界の現状をどう捉え、将来にどのような展望を描いているのか、張田真社長に話を聞いた。(藤田 英介)

――原料問屋の扱い量は年々減少傾向にあるが、足元の原料の発生や荷動きについて。

 「製造業が盛んな富山県内では製造業の景況感同様、工場発生は悪くはない。これに対し建築物の解体案件は、地方都市では2020年の東京五輪需要とは縁もなく、荷動きは良くない」

 「また中国の輸入規制により雑品がスクラップに混入するケースが散見されていることに関しては、電炉メーカーの検収が今まで以上に厳格化され原料の荷動きにも影響が出ている。我々リサイクル業者としては落としどころがどうなるのか状況を注視しているところだ」

――4月の廃掃法、10月のバーゼル法改正が与えた影響は。

 「業界にとって非常に大きな出来事だった。国が急成長する際に外部から資源を受け入れるのは自然の流れではあるが、プラスチックや雑品を中心とした様々な資源を輸入してきた中国に日本や世界が依存しすぎていた。今回は受け入れ側の中国が雑品の輸入を急遽禁止し、各国がその変化に対応する十分な猶予を与えなかったことも世界的混乱の原因だ」

 「当社では01年の家電リサイクル法施行に伴い再商品化工場として大臣認定を受け、家電リサイクル事業に進出。こうした状況が起こり得ると想定し、08年には射水リサイクルセンターを開設して処理・選別の自動化などを推進しコスト低減を図ってきた」

 「今後、雑品類の余剰感がさらに強まると予想される中、我々としては適正にリサイクルしていくとともに資源循環の高度化を目指しており、こうした諸問題をビジネスチャンスと捉えている」

――10年に2代目社長に就任された。就任後の取り組みは。

 「大規模な業務・事業の選択と集中を行い〝やめる仕事〟を決め、人的資源を未来への仕事に振り替えるなど筋肉質な経営体制の整備を進めた。経営改革の一環として13年度から働き方改革を実施。その結果、有給休暇取得率は17年度で当初比25%増の98%まで上昇し、1人当たりの平均残業時間も従来に比べ半減した」

 「採用面では、人手確保難の中でも選ばれる会社とは何かを考え、自社の強みを〝多様性を受け入れること〟だと考えた。そこで今年7月から社員の副業を認める制度を導入し、個々が働き方を選択できるようにした。業務に支障が生じないことが前提で現在数人が利用を開始している。社外での経験を通して個々のスキルやモチベーションのアップ、人脈構築に期待している」

――働き方改革にはすでにめどがついた。

 「次は〝働きがい〟改革に着手する。ここからは会社ができることに限界があり難しいところだ。日々の労働が社会貢献に繋がっていることを社員がもっと感じられるよう教育の機会を増やすことも考えているが、社員と会社の相互成長が必要。改革にゴールはなく、社員の幸福を追求していきたい」

元素成分分析機開発で水平リサイクルへ

――足元の業績は。

 「前期(18年6月)は増収増益。売上高は前々期比19%増の75億円で、ROS(売上高経常利益率)も10%を超えるなど体質改善効果が表れてきている」

 「これまで〝質〟を重視してきたが、今後は社会における役割を果たしていくための〝規模〟も求めていく。そのため21年度までに売上高100億円を目指す新中計を策定したところだ」

――研究・開発中のプロジェクトは。

 「レーザーを用いて元素レベルで成分分析し選別する世界初の『LIBSソーター』を関係機関と共同開発し、実用化に向け研究を進めている。これまでアルミ再生材の多くが鋳造材へとカスケードリサイクルされていたが、この選別機を使うことで合金種類別に素材メーカーへ供給する水平リサイクルが可能になる。欧米と比較し連携を強みとした動静脈一体による資源循環の高度化を目指している」

選択と集中、他社との共創推進/自動車リサイクル破砕に特化、他工程を他社と連携

 「その他、雑品処理設備や太陽光パネルリサイクル設備の開発、自動車に使用されている樹脂リサイクル技術の開発(18年度自動車リサイクル高度化財団実証助成事業)などに取り組んでいる」

――ハリタ金属が目指す次のステップとは。

 「たとえば工場の無人化。コストダウンのみならず社員の安全性確保のために最新のテクノロジーを駆使する。地球規模の環境問題が山積する中、企業のSDGs(国連の持続可能な開発目標)やESG(環境・社会・ガバナンス)投資などにソリューションを提供するビジネスも動かしている」

 「これからの時代の変化に一企業の力だけでは迅速に対応できない。最速で正しく成長するため外部の知見を活用しようと1年前にファンドと資本提携した。経営層を一新しコーポレートガバナンスの強化、高度な財務戦略、技術開発などをスピーディに進められるようになった」

――最後に、リサイクル業界に今後求められるものは。

 「AIやIoTなどの先端技術が台頭する現在は歴史的にも社会・産業構造の大転換期にあるが、まずは今の立ち位置を正確に把握することが必要だ」

 「経済学者のヨーゼフ・シュンペーターが『馬車をいくら連結しても鉄道にはならない』と言ったように、未来は過去の延長線上にはない。企業にとっての必須条件はいつの時代も変化だ。我々リサイクル業界も変化を恐れず積極的に受け入れて新たな価値を創造していかなければならない」

 「たとえば、これまで散見されていた過当な価格競争を避け、同業他社の皆さんと得意分野を生かし合いながら協業し、多くの方が幸福になれるようマーケットを新たにつくる。つまり自社の経営資源を適正化しながら他社の機能、ひいては社会資本をも有効活用(シェア)して経営効率を高めていくものだ」

――具体的には。

 「当社の場合、これまで解体から破砕まで行ってきた自動車リサイクル事業では今年末までに破砕業務に特化し、破砕以外の工程を他社と連携していくことにした」

 「また今年の3月に富山県内の1支店を地域の古紙や非鉄を扱うリサイクル業者に顧客も含め事業譲渡した。当社としては鉄や産廃分野でフォローし続け地域一番店を目指していただく。企業双方のウィンウィンを前提とした価格競争からの脱却を図る新しい手法だと考えている」

 「日本企業はこれまで日本人の勤勉さを武器に、1を100にする努力を積み重ねてきた。これからは0から1をつくる力、すなわち社会をデザインしたり価値を創造する力が本格的に問われる時代になるだろう。人口減と消費減が進む未来を先回りして変化を予測し、これからも経営者として先手を打っていきたい」

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