激戦区を歩く 2019 県議選(4) 対馬市区(定数一-4人)

手を振って有権者に支持を訴える県議選候補の選挙カー=対馬市内

 「4人の中で直接、国会議員に話を通せるのは私だけ。力を貸してください。当選させてください」-。
 告示翌日の3月30日、自民現職の坂本智徳候補は対馬市内の漁協前で街頭演説し、政権与党の国会議員とのパイプを強調しながら支持を訴えた。
 前回、無投票当選だった坂本候補にとって8年ぶりの選挙戦。元市議の船越洋一、元市長の財部能成、元市議の入江有紀の無所属新人3候補が挑む。組織戦の現職に対し、“草の根”選挙の3新人。いずれも大票田の厳原町を地盤とする政治経験者で、支持層や保守分裂などさまざまな要素が複雑に絡む。
 「当落は100票か200票差になるかも分からん」。3月23日、坂本陣営が業界団体を個別に集めた会合で、谷川弥一衆院議員はこうハッパを掛けた。漁協関係者には各漁協の推薦状況を聞き取り、他候補にも推薦状を出している漁協には「まだ間に合う。負けたらしこりが残る」と坂本候補への一本化を迫った。
 票固めを急ぐ現職。だが、足元は盤石ではない。ある漁協組合長は「漁師は一人親方。推薦しても指示通りに投票するのは6割くらい」。建設業関係者も「業界も一枚岩というわけではない」と明かす。
 こうした現職に対し、元市長の知名度で間隙(かんげき)を突こうとしているのが財部陣営だ。マグロの漁獲規制問題を絡めながら「対馬のための行動を起こせていない」と現職批判を展開し、漁業者票の切り崩しに躍起。だが、懸念材料は、過去の自身の選挙で大きく減らした得票数だ。2008年の市長選は1万5千票超で初当選したものの、再選を果たした12年の選挙では約1万票に落ちた。加えて今回、当時の一部支援者が他候補の支援に回る。
 一方、自民党員の船越候補は複数の市議の支援を取り付け、“保守分裂”の様相もはらむ。告示日の街頭演説では「私も谷川議員とは長い付き合い」「私が国、県とのパイプをつくり、話を持っていく」と坂本陣営を意識した発言が飛び出した。「自民公認の現職との戦い方は熟知している」と強気の姿勢だが、島中部の足掛かりが弱く、浸透に課題も残る。
 入江候補は「組織ではなく、女性や若者の支持を呼び掛けたい」として、島内をくまなく巡回。医療や福祉の充実を説いている。
 坂本陣営が組織戦を展開する中、ある新人陣営の幹部はこう見ている。「反坂本票が結集するか、分散してしまうか。それで勝負が決まる」。情勢は混戦模様のまま、終盤戦に入った。

◎立候補者 

(届け出順)
船越 洋一 73 無新 
坂本 智徳 65 自現 (4)
財部 能成 61 無新 
入江 有紀 76 無新 

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