希望退職に応じるか迷う57歳「再就職先の年収はいくらが妥当?」

読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。

今回の相談者は、割増退職金がもらえることもあり、希望退職に応じるか迷っているという57歳の男性。老後の不安を払拭するためには、再就職する場合、年収はいくらを目標にしたらいいのでしょうか? FPの平野泰嗣氏がお答えします。

勤務先の業績が思わしくなく、希望退職の募集が開始されました。対象者は、50歳以上の全社員ということで、私も該当します。現在は、営業関係の管理職をしていますが、責任も重く、仕事のストレスもかなり溜まっていると感じています。

一人息子の就職も決まり、今年の4月から一人暮らしを始める予定で、家計の負担もずいぶん楽になります。また、希望退職に応じた場合、割増退職金がもらえることなどから、妻に相談したところ、老後の心配がないのであれば、好きにしていいと言われました。

希望退職に応じた場合、再就職して65歳まで働くことを考えていますが、どのくらいの年収を目標にすればよいのかわかりません。

<相談者プロフィール>

・男性:57歳、会社員、既婚(妻:53歳、専業主婦)

・子ども1人:22歳(会社員)

・世帯年収:1000万円(月収:60万円、ボーナス:280万円)

・貯金残高:1500万円

・希望退職に応じた場合の退職金:4000万円(勤続34年、手取り約3670万円)

(60歳定年時の退職金2500万円に1500万円加算)

<家計の状況>

【毎月の給与時】

・基本生活費(食費・水道光熱費など詳細不明):40万円

※ただし、息子が独立するので35万円となる予定

・住宅ローン:10万円(70歳まで)

【ボーナス時】

・ボーナスの使い道:旅行(20万円ぐらい)、まとまった買い物(10万円)

・固定資産税や自動車関連費など:20万円


平野:ご相談いただき、ありがとうございます。業績不振や雇用延長にともなう人員構成の再構築などを背景に、早期退職制度の導入や希望退職を募る企業が増えています。

相談者様の会社のように割増退職金を支給するなど、一見すると魅力的に感じられるかもしれませんが、応じる場合は退職後の収入をどのように確保していくかを考えることが大切です。相談者様のように転職する際に、どのくらいの年収を目指せばよいのかわからないので、これらの制度に応じるか、なかなか踏み切れないという人も多いのではないでしょうか。

転職後のライフプランを大まかに作成する

希望退職に応じたと仮定して、相談者様の現在の家計状況をもとに、以下の想定条件で大まかにライフプランをシミュレーションしてみました。

(収入)
・退職金4000万円、勤続34年の場合、手取り額は約3670万円になります。
・転職後の収入は不明なので、仮に現在の年収の半分の500万円(手取りは約400万円)として、65歳まで同額を維持できると仮定します。
・公的年金は、ねんきん定期便の情報から、57歳から65歳まで年収500万円で勤務したと仮定して修正し、手取り額を試算しています(夫65歳~235万円、69歳~200万円、妻65歳~77万円)。
・資産運用による収益は見込みません。

(支出)
・息子さんが独立した後の基本生活費を年額420万円(月額35万円)としました。なお、基本生活費は、0.5%の物価上昇を加味していますが、65歳時、家計の見直しを行うものとし、前年の90%の支出としています。
・住宅ローンは、繰り上げ返済などを考慮せず70歳まで続くものとしています。
・ボーナス時の支出(旅行、まとまった買い物、固定資産税、車両関係)は、65歳の退職後も継続するものとしています。ただし、自動車関連費は75歳まで、旅行・まとまった買い物は、80歳以降30万円から20万円に減額しています。

30年間の家計の収支と金融資産の残高をシミュレーションした結果、上のグラフのようになりました。

退職金をもらい初年度5000万円あった金融資産は、相談者様が80歳になる年に底をつき、87歳時点で1500万円のマイナスと予想されました。基本生活費や住宅ローン、毎年の娯楽費用などは盛り込まれていますが、自動車の買い替えや住宅リフォームなどの大型支出は盛り込まれていないので、生涯収支のマイナスはもっと大きくなる可能性があります。

希望退職に応じない場合はどうなるのか?

では、「どのくらいの収入を目指せばよいのか?」ですが、その前に、相談者様のケースで、希望退職に応じない場合を想定してみましょう。

相談者様の割増退職金は1500万円。57歳から60歳までの3年間、転職しない場合は年収1000万円を維持できますが、シミュレーション上の転職した場合の想定収入は500万円なので、差し引きゼロです(税・社保を考慮すれば退職金の方が有利)。

また、60歳以降に雇用継続した場合の年収を60歳時(1000万円)の6割を仮定すると600万円。シミュレーション上での転職後の想定収入500万円との差額100万円を、60歳から65歳までの5年間分を考慮すると、希望退職に応じない場合は500万円のプラスです(税・社保、年金への反映は考慮せず)。

ところが、シミュレーション上、87歳時点のマイナスは1500万円なので、転職しない場合の500万円のプラスを加算したとしても、家計は破綻することが予想されます。

相談者様の現在の年収は1000万円なので、手取り年収は、約730万円です。現在の家計状況を見ると、息子さん分の基本生活費や学費を考慮しても、家計は収支トントンぐらいであったと想像できます。学費の負担もなくなり、息子さんの分の家計負担も減るし、割増退職金ももらえるということで、希望退職の検討を始めたのだと思いますが、大前提として、ライフプランと家計の見直しが必要であったと言えるでしょう。

転職の前に3つのパターンでマネープランの作成を

相談者様の場合、割増退職金や家計状況の変化という経済面だけではなく、仕事上のストレスなどの精神面の問題などから転職を検討されています。現在の仕事が厳しいからといって、安易に転職をするのはおすすめできません。

どのような転職の事情があるにせよ、以下の3つのパターンでライフプラン、マネープランを作成し、比較検討することをおすすめします。

・現在の会社に継続して勤める場合
・転職した場合の想定年収
・最悪の想定年収(想定年収の半額など)

転職した場合の想定年収は、転職エージェントにアプローチすることによって、目安の金額を知ることができます。転職エージェントと話をする中で、自身のキャリアの棚卸ができ、自身の人材としての価値を知ることができます。

相談の趣旨として、どのくらいの年収を目指せばよいのかでしたが、ご自身の市場での価値を知って、次の段階として、どのくらいの収入であれば、無理のないライフプラン、マネープランが描けるかの問題になります。

相談者様のように年収1000万円を超えるような高収入の方から、早期・希望退職に関する相談をお受けしていると、ご自身の自己評価が低く、収入をかなり低く見積もっているか、反対に高く見積もり過ぎているかに二分されます。

勤め先を継続、転職した場合の想定収入、そして、最悪の収入ケースで、ライフプランを描いてみて、無理がないかを十分に吟味した上で、早期・希望退職に応じた方が安心です。

また、配偶者の方に転職の話をする際に、夫婦2人でライフプランをつくり、お互いが納得して、そして安心して暮らすことができるという状況で、転職することをおすすめします。

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