50代夫婦「子どもを美大大学院に行かせ、老後資金を効率よく貯めるには?」

読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。

今回の相談者は、子どもを美大の院まで進学させつつ、老後の資金を効率的に貯めたいという50代ご夫婦。限られた時間で最大限に貯蓄を増やすコツとは? FPの三澤恭子氏がお答えします。

家計をきちんと把握できていないので、無駄な支出を見直して、今の収入で最大限に貯めるためにはどうしたらいいのか教えてほしいです。下の子は美大の大学院まで進学する予定で、下宿も必要になってきます。夫婦の老後資金も考えて、効率よく貯めていきたいです。

住宅ローンは完済済みですが、おいしい食材などを探すのが好きで、ついネットで買ってしまうため、食費や趣味にお金がかかっています。通信費は、格安スマホが不安なため見直しをためらってしまっています。

収入面では、私は専門職のため、副業を視野に入れて増やしていきたいと考えていますが、夫は60歳で定年退職したいと考えているようです。

<相談者プロフィール>

・女性、50歳、既婚(夫:49歳、会社員)

・子ども2人:21歳(私立大学3年)、17歳(公立高2年、美大に進学予定)

・職業:会社員

・居住形態:持ち家(マンション)

・毎月の手取り金額:89万円

(夫:50万円、妻:39万円)

・年間の手取りボーナス額:350万円

・毎月の世帯の支出目安:40~49万円(あまり把握していない)

【支出の内訳】

・住居費:3万円(修繕・管理費)

・食費:15万円

・水道光熱費:2.2万円

・教育費:3万円

・保険料:1万円

・通信費:4.2万円

・車両費:2万円

・お小遣い:10万円

・その他:5万円(交際費、被服費、雑費)

・大学の学費:年間80万円(※ボーナスから捻出)

【資産状況】

・毎月の貯蓄額:40万円

・ボーナスからの貯蓄額:180万円

・現在の貯蓄総額:1100万円

・現在の投資総額:230万円

・現在の負債総額:なし


三澤:ご相談ありがとうございます。ファイナンシャルプランナーの三澤恭子です。老後資金を最大限に効率よく貯めていきたいというご要望ですね。相談者様は、おいしい食材探しが好きとおっしゃるだけあって食費や趣味の支出が全体の4割強を占めています。

毎月の支出が40~49万円というざっくりとした家計管理から、ゴールを見据えたお金の貯まる家計管理へと取り組んでいきましょう。

現在の収入から「最大限に貯められる金額」がいくらか試算してみる

まずは、最大限に貯めるために家計収支の改善点を明確にしていきましょう。総務省の家計調査データを参考に、相談者様の家計と4人あるいは3人家族が1ヵ月に使う平均生活費を比較してみました。

<勤労者世帯の1ヶ月の平均生活費(単位:円)>

出所:総務省統計局 家計調査報告「家計収支編」2019年 第4表世帯人員・世帯主の年齢階級別(勤労者世帯)より筆者作成。※5万円の費目内訳は、交際費、被服費、雑費。

もちろん収入や年齢、性別など家族構成が違いますのであくまで参考値となりますが、家計調査データと比べ支出が10万円ほど多くなっています。特に食費は2倍近くかかっています。家計をスリム化し、さらに10万円を貯蓄に回せるよう改善していきましょう。

【家計改善で10万円の削減】
例えば、1ヵ月の支出を39万円に抑えることとし、費目ごとの予算額を決めます。優先順位のトップに「おいしい食材の購入」がくるのであれば食費への予算配分を多めに取ったうえで、「ネットからは月3万円まで」などルールを決めて購入しましょう。

そして気になるのは、お小遣いの使い道です。4人家族の平均生活費の教養娯楽費とお小遣いを合わせても約5万円ですので、10万円のお小遣いは見直す必要があります。

また現在の通信費を家族4人分とした場合、お子さんだけでも格安スマホに変更するなど検討してみてはいかがでしょう。少しずつでもいいので10万円の削減に近づけて行きましょう。

次に、下のお子さんの学費と下宿代を見積もってみましょう。

【美大の学費と生活費の予測】
下表より、私立の美大に進学した場合、大学院(2年)までの学費総額は約1000万円です。国立ではその半分となります。この他に実習費や材料費も必要となりますが、学費は上のお子さんと同様、ボーナスから支払うのでしょうか。私立となれば160万円ほどかかりますが、ちょうど上のお子さんの学費負担がなくなりますので捻出できない金額ではないかと思われます。

<美大の学費(単位:円)>

一方下宿代ですが、日本学生支援機構の「平成28年度 学生生活調査」によると、大学生の平均生活費は年間69万800円、修士課程では99万1000円という結果が出ています。仮に家賃を7万円とした場合、学費以外に月々13~15万円の仕送りが必要となりそうです。

無駄な支出を見直すことで仕送り分を捻出することができれば、毎月の貯蓄額は老後資金に回せます。また、学費をボーナスから捻出するのであれば、今ある貯蓄を投資に回すことも可能です。ご主人の退職までの10年間で約6000万円(ボーナスから100万円、毎月分から480万円、合計580万円×10年間)の老後資金が作れそうです。

この老後資金を“効率よく貯める”のであれば、国の制度をフル活用するのが賢いやり方です。

国の制度(税制優遇)をフル活用して効率よく貯める

具体的には、2つの「税制優遇」の活用です。

1つ目は掛金全額が所得控除となる個人型確定拠出年金iDeCoです。相談者様ご夫婦は会社員とのことですので、月額最大2万3000円の掛金でiDeCoをスタートできる可能性があります(掛金=拠出金額については会社で要確認)。

例えば、毎月の貯蓄額40万円から、ご夫婦ともにiDeCoに2万3000円(年間27万6000円)を振分け10年間積立てした場合、仮にご夫婦の所得税率が20%で10年間変わらなかったとすると、住民税(10%)と合わせ年間8万2800円×2人分=16万5600円×10年間の節税効果が期待できます(10年間の手数料等は考慮していません)。もちろん掛金552万円が大きく育つことも期待できます。

2つ目は、運用益が非課税となるNISA口座やつみたてNISA口座を作って運用することです。一般的に投資信託の売却益や定期預金の利息などは、その利益に対して20.315%の税金を支払わなくてはなりません。

NISAは2023年までは現行制度(2024年より新制度)で年間120万円に対する運用益が5年間非課税となります。また、つみたてNISA(2042年まで5年延長)は年間40万円まで積立てが可能で、20年間にわたって運用益が非課税になることから、複利効果を最大限に生かすことができます。まとまった金額はNISA口座で運用、毎月分はつみたてNISA口座でコツコツ運用するなど、夫婦それぞれがどちらの制度を利用するかなどについて話し合って決められたらいいと思います(一人で2つの口座は併用できません)。

まずはしっかりと家計改善を行い、相談者様のご家庭と相性の良い税制優遇をフル活用してみてください。

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