生活レベルを下げるかの判断は貯蓄率にあり?高収入シングルマザーの悩み

読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。

今回の相談者は、年収が600万円ほどあるため、児童扶養手当やひとり親の医療費助成も受けられないという39歳のシングルマザー。将来に備えるためには、今の生活レベルをどれくらい下げたらいいのでしょうか。FPの山本節子氏がお答えします。

5歳の子どもがいる、シングルマザーです。将来のことを考えると貯金は多いに越したことはないと思うのですが、今の生活レベルをどの程度下げればいいのかがわかりません。どうしても今までの感覚が抜けずに、海外旅行などにお金を使ってしまいます。子どもの学費や老後の自分の生活費、旅行の頻度など、どのように計画して貯めていけばいいのでしょうか。

昨年の年収は額面で760万円ほどでしたが、今年は時短勤務を選択したので600万円以下に下がる予定です。児童扶養手当は一切受け取っておらず、ひとり親の医療費助成制度も対象外です。収入がそれなりあるため、同じような境遇のシングルマザーが少ないので、相談する相手がいません。

また1800万円の中古マンションを購入した時に、親にお金を借りました。あと4年ほどで返し終わる予定です。

〈相談者プロフィール〉

・女性、39歳、バツイチ

・子ども1人:5歳

・職業:会社員

・居住形態:持ち家(マンション)

・毎月の手取り金額:30万円

・年間の手取りボーナス額:120万円

・毎月の世帯の支出目安:20万円

【支出の内訳】

・住居費:9.4万円(親への返済+管理費)

・食費:3万円

・水道光熱費:0.8万円

・教育費:1.5万円

・保険料:0.9万円

・通信費:0.5万円

・車両費:2万円

・お小遣い:1万円

・その他:1万円

【資産状況】

・毎月の貯蓄額:10万円

・ボーナスからの貯蓄額:30万円

・現在の貯蓄総額:500万円

・現在の投資総額:なし

・現在の負債総額:350万円(親への借金)


山本:1人で働きながら子育てもして、よく頑張っていらっしゃると思います。時短勤務を選択して収入が下がるため、今の生活レベルを下げなくてはいけないのかとご心配のご様子ですが、心配を安心に変えるには、まずは家計の現状把握が大切です。

収入と支出の内訳を見ながら、それをもとに将来の備えをどうするかの方法を具体的に見ていきましょう。

シングルマザーの年間収入は100~200万円未満が最多!

下記の(図1)は、母子家庭の母の年間収入別の割合を表したグラフです。

これを見ると、離婚・死別・未婚ともに、最も割合の多いのは100~200万円未満の家庭です。

相談者は同じシングルマザーの中でも収入が多いため、400万円以上の範疇となります。その割合は少なく、10%未満の1桁です。今年から時短勤務を選択して年収が600万円以下に下がるとしても、400万円よりさらに約200万円も多い収入です。ですから、残念ながら、母子家庭の児童扶養手当もひとり親家庭医療費助成金も対象外です。相談内容にもありますが、同じシングルマザーでも、お金の話だけは同じ境遇の方は少ないと思ってください。

ちなみに、母子家庭の児童扶養手当もひとり親家庭医療費助成金も、扶養する子どもの数や前年所得により支給額が異なりますが、このグラフの最多家庭を中心に支給していることがわかります。

今後増える支出を把握しつつ、貯蓄率は維持して

相談者の現在の年間貯蓄額は、150万円です(=10万円×12ヵ月+30万円)。税込み年収600万円として計算すると、貯蓄率は25%(=150万円÷600万円×100)になります。一般的な平均貯蓄率は20~30%ですが、シングルマザー世帯の貯蓄率はこれよりも低いため、貯蓄率の25%はすばらしいです。

しかし、これからお子さんが成長するにつれ、教育費や食費が増えることが予想されます。この貯蓄率を維持するにはどうしたらいいのか、支出の内訳を見てみましょう。

図2は、総務省 家計調査表より「母親と18歳未満の子供のみの世帯の平均値」の統計データと相談者の家計を比較したものです。これによると、相談者の住居費は、月9万4000円と統計データより多いようですが、これは親への借金返済が含まれています。4年後に返済が終われば、あとは管理費のみになるため負担は少なくなります。

今後、お子さんが成長するにつれ、統計データのように食費や水道光熱費が増えていくことが予測されます。4年後、住居費が軽くなった分の余剰金額は、この食費や水道光熱費に充当されるといいと思います。

つぎに、通信費5000円は少なめですが、車両費2万円が項目立てしてあるため、自動車で通勤をしていらっしゃるのではと推察いたします。すると、これは交通通信費としての必要支出ですね。ボーナスから車検料や自動車税、車の買替え費用を別枠で備えておきましょう。

統計データの合計は月22万5370円、相談者の現在の支出合計は月20万1000円です。差額は月2~3万円です。この統計からもわかるように、お子さんが18歳ごろまでは、少なくとも現在より支出が毎月2~3万円ほど増えると覚悟しておいてください。

将来の計画は、教育費と老後費用の2つを目標に!

将来の支出で大きな増加が予想されるのが、教育費です。お子さんの小学校・中学校・高校・大学などの進路により、教育費は大きく変わってきます。まだまだ先のことですが、進路選択によって必要な学費を教育費として少しずつ貯蓄をしておきましょう。

また、ご相談内容の本題である海外旅行の頻度についてです。海外旅行は楽しいですよね。現在は新型コロナウィルスの流行で当分海外旅行は行けませんが、旅行はストレス解消や生活のメリハリにもなります。

ただ、今後、お子さんが成長して、お稽古事やクラブ活動など友達との交流が増すにつれ、海外旅行の頻度は下がる可能性があります。また海外旅行といっても、日程や場所によって旅行代金は大きく異なります。ですから、海外旅行の頻度は生活レベルとイコールではないと思います。

現在の貯蓄率25%が維持できる範囲内なら、生活レベルを下げることなく、これまで通りの生活を送っていいと思います。しかし、これまで見てきたように、お子さんの将来の進路の選択によっては、多額の教育費を確保する必要があります。その場合は、海外旅行の頻度を下げる必要が出てくるでしょう。

まずは、教育費と老後資金を優先して貯めてはいかがでしょうか。老後資金は、老後にゆっくり海外旅行を楽しむことを目的とした資金にもなります。

蓄財は、コツコツ地味に貯めるしか方法がありません。現在の貯蓄額500万円と将来の貯蓄額は、今後のお子さんの進路に応じた教育費と、ご自分の老後資金の2つに色分けをして蓄えることをオススメします。

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