西武辻監督が打率.048の男にかけた訳 「スパンの足なら勝負になると踏んでいた」

西武・辻発彦監督【写真:荒川祐史】

「しぶとく転がしてくれれば、スパンジェンバーグの足なら勝負になる」

■西武 2-0 オリックス(8日・メットライフ)

辻発彦監督率いる西武は8日、本拠地メットライフドームで行われたオリックス戦で、先発の高橋光成投手が1安打1四球完封。2-0で勝利したが、相手先発で球界を代表する右腕の山本由伸投手から先制点を奪った攻撃こそ、辻野球の面目躍如だった。

高橋光は9回1死までオリックス打線を無安打無得点に抑えたが、一方の西武打線も4回まで山本に1安打無得点に抑えられ、3者連続を含む5三振を喫していた。

0-0の均衡を破ったのは5回。先頭のスパンジェンバーグが右前打を放ち、二盗とメヒアの四球で、無死一、二塁。ここで、打者転向2年目でフルスイングが持ち味の川越誠司外野手は、捕前に送りバントを決め、プロ初犠打をマークした。二、三塁の好機で打席に入ったのは「8番・捕手」でスタメン出場していた岡田。この時点での今季打率は、わずか.048(21打数1安打)しかなかった。指揮官は1割にも満たない男のバットに賭けた。

カウント2-2から、岡田が外角低めのワンバウンドしそうなスライダーへ必死にバットを伸ばすと、前進守備の二塁手正面へのゴロとなった。これに三塁走者の俊足スパンジェンバーグが鋭く反応し、先制のホームを駆け抜けた。二塁手は諦めて一塁へ送球するしかなかった。

値千金の先制点をもぎ取った岡田は試合後、お立ち台に呼ばれ、「もうホントに打率がなくなりそうなんで、なんとかバットに当てたいという思いだけでした」と語り、4721人の観客を爆笑させた。

辻監督は岡田の打撃を称賛「久々に岡田の粘り強さ、執念が出た」

辻監督は「久々に岡田の粘り強さ、執念が出た」とたたえ、「岡田がしぶとく転がしてくれれば、スパンジェンバーグの足なら勝負になると踏んでいた」としてやったり。“山賊打線”の豪快な打撃だけが西武らしさではない。小技を駆使し、好投手からしぶとく1点ずつ取っていく野球は、伝統的に西武が得意とするところだ。

西武の捕手陣は、レギュラーで昨年の首位打者の森が背中の張りを訴え、この日を含め最近7試合中4試合でスタメン落ち。代わりに、プロ7年目・31歳の岡田と、ドラフト5位ルーキーの柘植が2試合ずつ先発マスクをかぶっている。岡田は打撃でも年の功を見せた格好だ。

そもそも、岡田に1死二、三塁のチャンスをおぜん立てした川越の送りバントについても、辻監督は「ホントに下手。練習は必死にやっているが、果たして球界で1、2を争う投手の球をバントできるのか、正直言って不安だった」と明かすのだから、指揮官も選手も大した舞台度胸である。

続く6回には、主砲の山川がこれまた渋い中前適時打。西武は、8日時点で今季リーグ断トツの93奪三振、同2位の防御率3.01を誇る山本から2点を奪い、勝利をものにした。首位ソフトバンクに7.5ゲーム差をつけられ、5位を低迷している西武にとって、リーグ3連覇は日に日に困難になりつつあるが、相手チームにとって不気味な“引き出し”を、まだまだ隠し持っている。(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

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